Q.旅館業法とは何か?

旅館業法(昭和23年法律第138号)は、宿泊料を受けて人を宿泊させる営業について、公衆衛生の確保と宿泊者の保護を目的に定められた法律です。全16条で構成され、営業許可制度・構造設備基準・宿泊者名簿の備付義務・罰則などを規定しています。

第1条(目的) 旅館業法
この法律は、旅館業の業務の適正な運営を確保すること等により、旅館業の健全な発達を図るとともに、旅館業の分野における利用者の需要の高度化及び多様化に対応したサービスの提供を促進し、もつて公衆衛生及び国民生活の向上に寄与することを目的とする。

制定は1948年(昭和23年)。戦後の公衆衛生整備の一環として生まれ、その後の民泊の普及やインバウンド拡大に合わせて複数回の改正を経ています。直近では2023年(令和5年)12月13日施行の改正が大きく、宿泊拒否事由の明確化・名簿記載事項の変更が行われました。

適用範囲.「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」であれば、ホテル・旅館・ペンション・ゲストハウス・カプセルホテル・グランピング施設のすべてが旅館業法の適用対象です。名称ではなく営業の実態で判断されます。

Q.営業類型は何がある?

旅館業法第2条は、旅館業を以下の3つの営業類型に分類しています。2018年の改正前は「ホテル営業」と「旅館営業」が別類型でしたが、統合されて現在は3類型です。

類型定義客室要件(参考)代表的な施設
旅館・ホテル営業 施設を設け、宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業で、簡易宿所営業及び下宿営業以外のもの 客室延床面積の基準は自治体条例に委任(かつてのホテル9㎡/旅館7㎡の法定基準は廃止) ビジネスホテル、シティホテル、旅館、リゾートホテル
簡易宿所営業 宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を主とする施設 延床面積33㎡以上(宿泊者数10人未満は3.3㎡×人数) ゲストハウス、カプセルホテル、山小屋、ユースホステル
下宿営業 施設を設け、1月以上の期間を単位として宿泊料を受けて、人を宿泊させる営業 下宿(新規許可はほぼなし)

実務上、新たに開業する施設の大半は「旅館・ホテル営業」か「簡易宿所営業」のいずれかです。どちらに該当するかは客室構造(個室主体か共用主体か)で判断されます。判断に迷う場合は、保健所への事前相談が必須です。

簡易宿所の許可取得.簡易宿所の構造設備基準や保健所への申請手続きの詳細は「簡易宿所の営業許可の取り方」で解説しています。

Q.営業許可はどう取得する?

旅館業法第3条により、旅館業を営もうとする者は都道府県知事(保健所設置市は市長、特別区は区長)の許可を受けなければなりません。無許可営業は刑事罰の対象です。

許可取得の基本的な流れ

  1. 事前相談 — 管轄保健所に計画段階で相談。用途地域・構造設備基準・消防法上の要件を確認する
  2. 申請書類の準備 — 営業許可申請書、施設の図面(配置図・平面図・立面図)、建築確認済証の写し等
  3. 申請・手数料の納付 — 管轄保健所に提出(手数料は自治体により異なる。目安は2〜3万円前後)
  4. 施設の検査 — 保健所職員による現地検査。構造設備基準(第3条の2・3)への適合を確認
  5. 許可証の交付 — 基準適合が確認されれば許可証が交付される。施設内に掲示が必要

構造設備基準のポイント

旅館業法第3条の2(旅館・ホテル営業)及び第3条の3(簡易宿所営業)に構造設備基準が定められています。具体的な数値基準は都道府県の条例に委任されている部分が多く、自治体によって差があります。共通する主な項目は以下の通りです。

  • 適当な換気、採光、照明、防湿、排水の設備があること
  • 入浴設備(共同浴室等)の構造が衛生的であること
  • 宿泊者の需要を満たすことができる規模の玄関帳場(フロント)又はそれに類する設備があること
  • 都道府県条例で定める客室面積基準を満たすこと
注意.2018年の改正で玄関帳場要件が緩和され、一定条件下でのICT活用(セルフチェックイン)が認められました。ただし「テレビ電話等での本人確認」「緊急時10分以内の駆けつけ体制」等の条件があり、自治体ごとの運用にも差があります。詳しくは管轄保健所に確認してください。

Q.営業者にはどんな義務がある?

宿泊者名簿の備付け(第6条)

旅館業の営業者は、宿泊者名簿を備え、宿泊者の氏名・住所・連絡先等を記載しなければなりません(第6条第1項)。名簿は作成の日から3年間の保存が義務付けられています(施行規則第4条の2第3項)。

第6条第1項(宿泊者名簿) 旅館業法
営業者は、厚生労働省令で定めるところにより、旅館業の施設その他の厚生労働省令で定める場所に宿泊者名簿を備え、これに宿泊者の氏名、住所、連絡先その他の厚生労働省令で定める事項を記載し、都道府県知事の要求があつたときは、これを提出しなければならない。

施行規則第4条の2に定められた記載事項は以下の通りです。

  • 氏名
  • 住所
  • 連絡先(2023年12月13日施行の改正で「職業」から変更)
  • 日本国内に住所を有しない外国人の場合は、さらに国籍及び旅券番号

名簿の作成・保存・運用の詳細は「宿泊台帳と個人情報保護法」で解説しています。記載事項・保存期間・電子化・団体宿泊の扱いなど実務面の全手順は「宿泊者名簿(宿泊台帳)の作り方」をご覧ください。

宿泊させる義務と拒否事由(第5条)

旅館業法第5条第1項は、営業者は宿泊しようとする者の宿泊を拒んではならないと定めています。ただし同条第2項に例外的な拒否事由が列挙されています。

2023年改正で拒否事由が明確化され、従来の「伝染性の疾病にかかつていると明らかに認められるとき」に加え、「特定感染症のまん延防止に必要な措置に応じない場合」が追加されました。あわせてカスタマーハラスメントへの対応として、「営業者に対し過重な負担を課す行為を繰り返す場合」も拒否事由として認められるようになっています。

宿泊拒否の実務.2023年改正による宿泊拒否事由の詳細と実務対応は「2023年改正旅館業法の実務影響」及び「宿泊拒否の連携実務」で解説しています。

衛生管理(第4条・第7条)

営業者は施設の換気・採光・照明・防湿及び清潔を保持する義務があります(第7条)。具体的な衛生基準は「旅館業における衛生等管理要領」(厚生労働省通知)で示されており、定期的な設備点検・清掃記録の保管が求められます。

Q.違反するとどうなる?

旅館業法の罰則は、違反の種類と重大性に応じて段階的に定められています。

違反内容根拠条文罰則
無許可営業 第10条第1号 6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金(併科あり)
営業停止命令違反 第10条第2号 6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金
宿泊者名簿の不備・虚偽記載 第11条第1号 50万円以下の罰金
宿泊拒否義務違反 第11条第2号 50万円以下の罰金
立入検査の拒否・妨害・忌避 第11条第3号 50万円以下の罰金
注意.罰金額は法定上限であり、実際の量刑は事案の悪質性で異なります。刑事罰に加え、営業許可の取消し・営業停止命令(第8条)の行政処分、OTA掲載停止、損害賠償請求、報道によるブランド毀損まで考えると、実質的な経営ダメージは罰金額を大きく上回ります。

Q.これまでにどんな改正があった?

2018年改正 — 旅館・ホテル統合と規制緩和

2018年6月15日施行の改正(住宅宿泊事業法と同日施行)では、以下の変更が行われました。

  • 「ホテル営業」と「旅館営業」を「旅館・ホテル営業」に統合(4類型→3類型へ)
  • ホテルの洋室最低面積9㎡・旅館の和室面積基準7㎡の法定面積基準を廃止し、条例委任へ
  • 玄関帳場の設置義務を緩和し、ICT等を活用した代替措置を認める方向へ
  • 無許可営業の罰則強化(罰金上限3万円→100万円、懲役刑の新設)

2023年改正(令和5年法律第84号)— 宿泊拒否事由と名簿記載事項

2023年12月13日施行の改正は、コロナ禍の経験を踏まえた以下の変更が中心です。

  • 宿泊拒否事由の明確化 — 特定感染症のまん延防止措置に応じない場合、営業者に過重な負担を課す行為を繰り返す場合(カスハラ対応)等を追加
  • 差別的取扱いの禁止の明文化(障害、人種、国籍等を理由とする宿泊拒否の禁止)
  • 名簿記載事項の変更 — 「職業」を廃止し「連絡先」を追加(施行規則第4条の2改正)
  • 事業譲渡時の許可の承継手続きの整備

2023年改正の実務影響の全体像は「2023年改正旅館業法の実務影響」で詳しく解説しています。

2025年改正刑法の波及 — 「懲役」から「拘禁刑」へ

2025年6月1日施行の改正刑法により、「懲役」と「禁錮」が「拘禁刑」に一本化されました。旅館業法の罰則条文もこれに連動して自動的に読み替えが行われ、現行法の表記は「拘禁刑」です。罰則の重さ自体に変更はありません。

Q.民泊新法や特区民泊とはどう違う?

宿泊事業の法的枠組みは、旅館業法のほかに住宅宿泊事業法(民泊新法)国家戦略特区法に基づく特区民泊があります。それぞれ制度設計が異なります。

項目旅館業法民泊新法特区民泊
根拠法 旅館業法 住宅宿泊事業法 国家戦略特別区域法
手続き 営業許可(知事等) 届出(都道府県知事等) 認定(特区自治体の長)
営業日数 制限なし 年間180日以内 制限なし
対象区域 用途地域の制限あり 住居専用地域でも可(条例で制限可) 特区指定区域のみ
管理者 帳場又は代替措置 住宅宿泊管理業者への委託義務(家主不在型) 認定基準による
無許可の罰則 6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金 旅館業法の無許可営業として処罰

3制度の比較と選択基準の詳細は「旅館業法と民泊新法の違い」、民泊180日ルールの数え方は「民泊180日の数え方」で解説しています。

Q.自施設の適合状況をどう確認する?

営業許可証を取得し、施設内に掲示している
YES/NO
許可証の記載事項(定員・構造)と現況が一致している
YES/NO
宿泊者名簿に「氏名・住所・連絡先」を記載し、3年間保存している
YES/NO
外国人宿泊者の「国籍・旅券番号」を記録している
YES/NO
名簿のフォーマットに旧項目「職業」が残っていない(2023年改正対応済み)
YES/NO
消防設備(自火報・誘導灯・消火器)の点検記録が直近1年分ある
YES/NO
換気・採光・防湿・清潔の維持について定期点検を実施している
YES/NO
実務チェックリスト

適合確認から是正までの手順

やることいつまでに担当
営業許可証の記載事項と現況を突き合わせ四半期ごと総務・支配人
宿泊者名簿のフォーマット確認(「連絡先」欄があるか、「職業」欄が残っていないか)即時フロント責任者
名簿の保存期間(作成の日から3年)を満たしているか確認月次フロント・総務
消防設備点検結果報告書の直近1年分を確認年1回法定点検時防火管理者
改装・用途変更の計画があれば管轄保健所へ事前相談計画検討時経営企画
不適合項目は是正計画を策定し経営会議へ報告発見後30日以内支配人

Q.よくある質問

旅館業法の許可がなくても、年間180日以内なら民泊として営業できる?
住宅宿泊事業法(民泊新法)に基づく届出を行えば、年間180日以内の範囲で営業できます。届出なしでの営業は旅館業法の無許可営業に該当し、罰則(6月以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金)の対象です。詳しくは「旅館業法と民泊新法の違い」をご覧ください。
フロント(玄関帳場)を設置しない無人運営は合法か?
2018年の規制緩和以降、一定の条件を満たせば認められます。条件は (1) テレビ電話等による本人確認、(2) 緊急時おおむね10分以内の駆けつけ体制、(3) 管轄保健所への事前相談と承認です。自治体ごとに運用が異なるため、必ず管轄保健所に確認してください。
宿泊者名簿にはまだ「職業」を書かせている。問題ある?
2023年12月13日施行の施行規則改正で記載事項が「職業」から「連絡先」に変更されています。「職業」を記載させること自体は直ちに違法ではありませんが、法定の「連絡先」欄がなければ第6条の義務を満たしません。速やかにフォーマットを更新してください。
グランピング施設やコンテナホテルも旅館業法の対象か?
「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」の実態があれば対象です。テントやコンテナという形態ではなく、営業の実態で判断されます。グランピング施設は多くの場合、簡易宿所営業又は旅館・ホテル営業の許可を取得しています。
消防法の設備基準も旅館業法で決まっている?
消防法と旅館業法は別の法律です。旅館業法は公衆衛生の観点からの構造設備基準、消防法は防火・避難の観点からの設備基準を定めています。両方を満たす必要があります。消防設備の詳細は「ホテル・旅館の消防設備」をご覧ください。
BGMの著作権使用料も旅館業法に関係ある?
著作権法の問題であり、旅館業法とは別の法律です。ただし宿泊施設の運営には旅館業法・消防法・著作権法など複数の法令が関係します。BGMの著作権使用料については「ホテルのBGMで著作権料はいくら?」で解説しています。