Q.宿泊者名簿とは?

宿泊者名簿(宿泊台帳とも呼ばれる)は、旅館業法第6条によってすべての旅館業の営業者に備付けが義務付けられた法定帳簿です。宿泊者の氏名・住所・連絡先などを記載し、都道府県知事の要求があれば提出しなければなりません。

第6条第1項 旅館業法
営業者は、厚生労働省令で定めるところにより、旅館業の施設その他の厚生労働省令で定める場所に宿泊者名簿を備え、これに宿泊者の氏名、住所、連絡先その他の厚生労働省令で定める事項を記載し、都道府県知事の要求があつたときは、これを提出しなければならない。

名簿の目的は、公衆衛生上の事故発生時(食中毒・感染症等)に宿泊者を追跡・連絡できるようにすること、及び犯罪捜査への協力です。3年間の保存義務はこの目的に照らして設定されています。

旅館業法の全体像については「旅館業法とは?営業許可・届出・罰則の全体像」で解説しています。

Q.名簿には何を書くか?

記載事項は旅館業法施行規則第4条の2に定められています。2023年(令和5年)12月13日施行の改正で記載事項が変更されました。

現行の記載事項(2023年12月13日施行後)

  1. 氏名
  2. 住所
  3. 連絡先(電話番号、メールアドレス等)
  4. 国籍(日本国内に住所を有しない外国人のみ)
  5. 旅券番号(日本国内に住所を有しない外国人のみ)

改正前との比較

項目改正前(〜2023.12.12)改正後(2023.12.13〜)
基本項目 氏名、住所、職業 氏名、住所、連絡先
外国人追加項目 国籍、旅券番号 国籍、旅券番号(変更なし)
重要.名簿フォーマットに「職業」欄が残っている施設は、「連絡先」欄を追加してください。「職業」を残すこと自体は違法ではありませんが、法定の「連絡先」欄がなければ第6条の義務を満たしません。

「連絡先」の具体的な形式(電話番号・メールアドレス等)は法令で指定されていません。宿泊者に連絡が取れる手段であれば足ります。実務上は電話番号が一般的です。

Q.保存期間は?

施行規則第4条の2第3項により、宿泊者名簿は作成の日から3年間保存しなければなりません。

起算点に注意.起算日は「宿泊日」ではなく「作成の日」です。チェックイン時に名簿を作成した場合、チェックイン日が起算日になります。連泊で同一名簿を使う場合も最初の作成日が起算点です。

3年間の保存義務が設定された背景は、刑事訴訟法における罰金刑の公訴時効(3年)に合わせたものとされています。名簿が捜査機関への提出を前提とした帳簿であることの表れです。

3年を経過した名簿については法令上の保存義務はなくなりますが、廃棄にあたっては個人情報保護法に基づく適切な処分(シュレッダー、データ消去等)が必要です。名簿と個人情報保護法の関係は「宿泊台帳と個人情報保護法」で解説しています。

Q.外国人宿泊者の扱いは?

日本国内に住所を有しない外国人の宿泊者については、基本3項目(氏名・住所・連絡先)に加えて国籍旅券番号の記載が必要です(施行規則第4条の2第1項第4号・第5号)。

旅券の写しの保存

旅券(パスポート)の写しの保存については、法律上の義務ではなく、厚生労働省の通知による推奨です。ただし多くの自治体が要綱や指導で旅券の写しの保存を求めており、実務上は保存するのが標準的な運用です。

対象の範囲.「日本国内に住所を有しない外国人」が対象です。外国籍であっても日本国内に住所を有する者(永住者・定住者等)は、国籍・旅券番号の記載は不要で、日本人と同じ基本3項目です。

Q.団体宿泊では代表者だけの記載でいいか?

法令上は「宿泊者」の記載が求められており、代表者のみで足りるとする明文規定はありません。原則として宿泊者全員の記載が必要です。

ただし、厚生労働省の通知や一部自治体の運用指針では、団体客(修学旅行・ツアー等)について以下のような簡略化が認められることがあります。

  • 代表者(引率者・添乗員)の氏名・住所・連絡先を記載
  • 団体名・構成人数を併記
  • 参加者名簿(旅行会社作成のもの等)を添付
注意.この簡略化の可否は自治体によって異なります。必ず管轄保健所に運用を確認してください。「代表者のみで足りる」と断定できる一次情報(法令・省令)はありません。

Q.本人確認は法的義務か?

宿泊者名簿への記載にあたって、身分証明書等による本人確認を行う法的義務は、2026年6月時点ではありません。旅館業法第6条は「記載」を義務付けていますが、記載内容の真正性を担保するための本人確認手続きまでは求めていません。

令和5年(2023年)の法改正の過程では本人確認の一律義務化が検討されましたが、最終的に見送りとなりました。

ただし、以下の場面では実質的な本人確認が行われます。

  • 外国人宿泊者 — 旅券番号を名簿に記載するため、旅券の提示を受けることが事実上必要
  • ICTチェックイン(セルフチェックイン) — 2018年の規制緩和で無人フロントが認められた施設では、テレビ電話等による本人確認が許可条件に含まれる
  • 自治体の独自要綱 — 一部の自治体が本人確認を要綱で求めている場合がある
令和7年4月改正.令和7年(2025年)4月の省令改正で、ICTを活用した本人確認の方法が明確化されました。タブレット端末等を活用したチェックインの要件が具体化されています。

Q.名簿を電子データで保存してもいいか?

厚生労働省令の根拠に基づき、電子的な記録による宿泊者名簿の作成・保存は認められています。PMS(宿泊管理システム)での管理は適法です。

ただし、以下の要件を満たす必要があります。

  • 都道府県知事の要求時に速やかに提出できる状態を維持すること(画面表示又は印刷が可能であること)
  • 記載事項が改ざんされないよう適切に管理されていること
  • 保存期間(作成の日から3年間)を通じてデータが消失しないようバックアップ等の措置を講じること
適合例
PMSに宿泊者情報を登録し、CSV出力・印刷が可能
チェックイン時にPMSへ直接入力。データは定期バックアップ。知事要求時は即座に印刷可能。
適合
要確認例
タブレットで手書き署名をスキャン保存のみ
画像データのみで記載事項の検索・一覧化ができない。知事要求時に「速やかに提出」が困難な可能性。
要確認

Q.名簿不備の罰則は?

宿泊者名簿の備付義務(第6条)に違反した場合、50万円以下の罰金(第11条第1号)が科されます。

違反内容根拠罰則
名簿を備えていない 第11条第1号 50万円以下の罰金
法定記載事項が欠落している 第11条第1号 50万円以下の罰金
虚偽の記載をした 第11条第1号 50万円以下の罰金
知事の要求に対し名簿を提出しなかった 第11条第1号 50万円以下の罰金

罰金に加えて、改善命令(第7条の2)や営業停止・許可取消(第8条)といった行政処分の対象にもなり得ます。保健所の立入検査で名簿不備が発覚するのが最も一般的なパターンです。

Q.自施設の名簿運用をどう確認する?

実務チェックリスト

名簿フォーマット・運用の確認手順

やることいつまでに担当
名簿フォーマットに「連絡先」欄があるか確認(「職業」欄が残っていないか)即時フロント責任者
外国人宿泊者の「国籍」「旅券番号」欄があるか確認即時フロント責任者
保存期間(作成の日から3年)を満たしているか、最古の名簿の日付を確認月次フロント・総務
電子保存の場合、知事要求時に印刷・表示可能な状態か確認四半期IT・フロント
団体宿泊の運用ルールを管轄保健所に確認済みか初回のみ支配人
3年経過した名簿の廃棄手順(シュレッダー・データ消去)を定めているか年次総務・個人情報管理者
PMSのバックアップが定期実行されているか(電子保存の場合)月次IT

Q.よくある質問

宿泊者名簿には何を書けばいい?
施行規則第4条の2に基づき、氏名・住所・連絡先の3項目が必須です。日本国内に住所を有しない外国人の場合は国籍・旅券番号も必要です。2023年12月の改正で「職業」は廃止され「連絡先」に変更されました。
保存期間は宿泊日から3年?作成日から3年?
作成の日から3年間です(施行規則第4条の2第3項)。宿泊日ではなく名簿を作成した日が起算点です。チェックイン時に作成した場合、チェックイン日が起算日になります。
団体客は代表者だけの記載でいい?
代表者のみで足りるとする法令上の明文規定はありません。一部自治体の運用指針では代表者名・団体名・人数の記載と参加者名簿の添付で簡略化が認められることがありますが、必ず管轄保健所に確認してください。
チェックイン時に身分証の提示を求める法的義務はある?
2026年6月時点で、日本人宿泊者に対する本人確認(身分証提示)の法的義務はありません。令和5年改正で検討されましたが見送りになりました。ただし外国人宿泊者は旅券番号の記載が必要なため、事実上パスポートの提示を受けることになります。
PMSで管理しているが、紙の名簿も必要?
電子保存は認められているため、紙の名簿を併用する法的義務はありません。ただし都道府県知事の要求があったときに速やかに印刷・提出できる体制が必要です。
外国人の旅券の写しを保存する義務はある?
法律上の義務ではなく、厚生労働省通知レベルの推奨です。ただし多くの自治体が要綱で保存を求めているため、実務上は保存するのが標準です。管轄保健所に確認してください。