Q.宿泊施設のBGMに著作権処理が必要な理由は?

著作権法第22条は、著作権者に「公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(公に)」演奏する権利(演奏権)を認めています。CDやサブスクサービスの音楽をホテル・旅館内で再生する行為も、この条文上の「演奏」に含まれます。2018年の改正でIoT機器による自動演奏も明記され、Bluetoothスピーカーやスマートスピーカーでの再生も同じく対象です。

「公に」の判定 ― 客室は対象か?

条文上の「公に」は「不特定または多数」を指します。ロビー・ラウンジ・レストラン・宴会場など多数の宿泊客や通行客が利用する場所は明確に該当します。論点となるのは客室ですが、日本の裁判例ではホテル客室は「不特定の者が次々と利用する」性質から公の場と解されており、JASRAC・NexToneも客室BGMを許諾対象として料金表を定めています。

POINT.本稿の解釈は一般論です。個別事案の著作権処理範囲は管理団体(JASRAC・NexTone)公式窓口および弁護士へご確認ください。施設規模・設備・運用実態で判定が変わるため、最終的な契約内容は必ず公式見積もりで確定させます。

著作権処理が不要になる場合

  • 著作権保護期間が満了した楽曲(著作者の死後70年経過)
  • 著作権者が許諾フリーで提供する楽曲(ロイヤリティフリー音源、クリエイティブ・コモンズ等)
  • 自社制作のオリジナル楽曲(権利者が施設運営者自身)
  • 著作権法第38条の要件(非営利・無料・無報酬)を完全に満たす上演(事業性を伴うBGMは原則該当しません)

ロイヤリティフリー音源でも提供元のライセンス条件(商用利用可否・店舗数制限・再生回数制限等)は必ず確認してください。

Q.著作権法の主要条文は?

第22条(上演権及び演奏権) 著作権法
著作者は、その著作物を、公衆に直接見せ又は聞かせることを目的として(以下「公に」という。)上演し、又は演奏する権利を専有する。
出典: e-Gov法令検索(著作権法) https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048
第23条(公衆送信権等) 著作権法
著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。
2 著作者は、公衆送信されるその著作物を受信装置を用いて公に伝達する権利を専有する。
出典: e-Gov法令検索(著作権法) https://laws.e-gov.go.jp/law/345AC0000000048

ホテル館内のIPTV配信や各客室への有線音源分配は第23条(公衆送信・伝達)の射程に入るケースがあり、第22条と併せて処理対象を検討します。

Q.JASRAC包括契約の料金体系はどうなっている?

JASRAC(日本音楽著作権協会)は日本最大の著作権管理団体で、約400万曲を管理しています。宿泊施設はJASRACと「使用料規程に基づく利用許諾契約」を結ぶことでBGM利用が許諾され、管理楽曲であれば曲を追加しても追加料金は発生しません。

主な料金体系(年額・税抜・2026年4月時点)

場所区分規模・条件料金(年額)
客室客室40㎡以下/1室あたり480円
客室40〜80㎡/1室あたり720円
客室80㎡超/1室あたり960円
ロビー・ラウンジ面積100㎡以下18,000円
面積100㎡超面積比例で増額
宴会場・大広間収容人数50名以下12,000円
収容人数51〜100名24,000円
収容人数101名以上人数比例で増額
レストラン・カフェ面積別12,000円〜

※ 上記はJASRAC「使用料規程 第2章 第3節」の概要を要約したものです。実際の料金は施設規模・設置機器・地域等により変動するため、必ずJASRAC公式の料金シミュレータまたは支部に問い合わせて算定してください。

包括契約と個別申請の違い

JASRAC包括契約の最大のメリットは、JASRAC管理楽曲ならどの曲を流しても追加料金なしな点です。楽曲ごとの個別申請(月次の利用報告と楽曲別料金算定)も制度上は可能ですが、選曲・報告の運用負荷が大きいため、ほぼすべての宿泊施設が包括契約を選択しています。

Q.NexToneはJASRACとどう使い分ける?

NexTone(株式会社NexTone)は2016年設立の著作権管理団体で、JASRACが管理しない楽曲(または非独占管理楽曲)の利用窓口です。約20万曲を管理しており、近年のJ-POPアーティスト(米津玄師、宇多田ヒカル等)の一部楽曲がNexTone管理となっています。

両者契約が必要なケース

  • BGMにJASRAC管理曲とNexTone管理曲が混在する場合 → 両者と契約が必要です
  • サブスクサービス(Spotify Business等)でNexTone管理曲を含むプレイリストを再生する場合 → サービス提供者がNexToneと包括契約を結んでいれば施設側の追加契約は不要(サブスク料金に含まれる)
  • BGM選曲をJASRAC管理曲のみに限定すれば、NexTone契約は不要
注意.楽曲がJASRAC・NexToneのどちらに管理されているかはJASRAC作品検索データベース「J-WID」、NexTone作品検索で確認可能です。BGM選曲リストを四半期ごとにチェックし、管理団体変更(移管)があった場合も契約範囲を更新します。

Q.有線放送や事業者向けサブスクで済ませる場合の論点は?

USEN(株式会社USEN)、モンスター・チャンネル(株式会社USEN-NEXT HOLDINGS)、CANSYSTEM等のBGM配信サービスを契約すれば、サービス料金にJASRAC・NexTone等への著作権使用料が含まれるため、施設側で別途著作権処理を行う必要はありません。

有線放送のメリット

  • 著作権処理が完全に不要(契約料金に込み)
  • プロのキュレーターが選曲した約500-1,000チャンネルから施設の雰囲気に合うBGMを選択可能
  • 季節・イベント特化チャンネル(クリスマス、和風、リゾート等)の対応が容易
  • 故障時のサポート・楽曲リクエスト対応あり

USEN月額料金の目安(2026年4月時点)

サービス月額料金備考
USEN音楽放送(基本)5,500円〜1拠点・標準チャンネル
USEN音楽放送(複数拠点)割引適用2拠点目以降は割引
OTORAKU(IP配信)2,200円〜BGM特化、初期費用低め

※ 価格は契約条件・キャンペーン等により変動します。最新料金は各サービス公式サイトで確認してください。

事業者向けサブスク(Spotify Business・Apple Music for Business等)

Spotify、Apple Music、Amazon Music等のサブスクサービスを業務BGMに使う場合、個人用プランは利用規約違反となり、事業者向けの有償プランへの切替が必要です。事業者向けプランはサービス提供者側がJASRAC・NexTone等と包括契約を結んでおり、施設側の追加契約は不要になります。

サービス月額料金備考
Soundtrack Your Brand(Spotify公式提携)約3,300円〜日本国内はパートナー経由で提供
Apple Music for Business非公開(法人問合せ)提携パートナー経由
Amazon Music for Business約2,500円〜日本国内では限定的
OTORAKU(USEN系)2,200円〜日本国内事業者向けの主力

事業者向けプランでも、多店舗展開は店舗数分の契約が必要、宴会・婚礼の生演奏は録音音源と別枠、外国曲の取扱いは契約書で範囲を確認、など論点が残ります。

Q.具体的な適用例は?

ケース 01
100室シティホテル(JASRAC直契約)
客室100室(平均40㎡)・ロビー1・レストラン2・宴会場2(各収容100名)。JASRAC包括契約で年額約13.8万円(税抜概算)。
適合
ケース 02
30室旅館(USEN契約で一本化)
客室30室・ロビー・大浴場前・宴会場小1。USEN音楽放送月額5,500円×12 = 年額66,000円。著作権処理は料金込み。
適合
ケース 03
個人プランSpotifyをロビーで流用
従業員個人のSpotify Premiumアカウントでロビーに流す運用。利用規約違反に加え、著作権処理も未完了。
違反
ケース 04
高級リゾート(JASRAC+NexTone+USEN混在)
客室20室(スイート・80㎡超)・ロビー100㎡超・ダイニング2・バー1。客室はオリジナル選曲で直契約、共用部はUSENに切分け。
適合
ケース 05
婚礼会場で主催者の生演奏(契約書未整備)
宴会場で新郎新婦側が楽器演奏・DJ持込。会場提供のみでも、著作権処理責任の所在が契約書で明示されていない。
要確認
ケース 06
グランピング(著作権フリー音源のみ)
客室15室・コモンスペース・レストラン。Artlist・Epidemic Sound等の有償ライセンス音源で統一。
適合

判断の分岐点は「管理団体に正規契約しているか」「事業者向けプランか個人プランか」「生演奏・持込演出の責任所在が契約書に明記されているか」の3点です。

Q.違反した場合のリスクは?

注意.無許諾BGMは著作権法第119条により10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金(法人両罰規定で最大3億円)の対象です。加えてJASRAC・NexTone等からの使用料遡及請求・遅延損害金・民事差止請求が発生します。類似業態の過去判例では数十万〜数百万円規模の支払命令例があり、罰金額を超える経営インパクトに至るケースがあります。

経営インパクトが罰金額を超える理由

  • 使用料の遡及請求: 過去数年分の使用料相当額を一括請求されます。客室200室クラスなら累積100万円単位に達します。
  • 損害賠償請求: 無許諾演奏に対する損害賠償は使用料相当額の3倍程度まで増額される実務例があります。
  • SNS・OTA経由のレピュテーション毀損: 「BGM違法利用のホテル」というネガティブ情報が拡散すると、客室単価・予約数に直接影響します。
  • ブライダル・MICE案件のキャンセル: 婚礼・企業パーティー主催者側のコンプライアンスチェックで契約解除となるリスク。
  • 営業停止リスク: 反復・悪質な侵害と判断された場合、刑事告訴・仮処分による館内放送停止の可能性。

無許諾BGMによる摘発は、元従業員の内部通報・競合施設からの情報提供・SNS投稿からの逆引き等、ルートが多様化しています。「バレなければ問題ない」という想定は経営リスクとして成立しません。

Q.自社の適合状況をどう確認する?

館内でBGM・有線放送を流している全エリア(ロビー・客室・宴会場・レストラン・スパ等)を棚卸し済み
YES
各エリアの音源(JASRAC直契約/NexTone契約/有線放送/事業者向けサブスク/オリジナル音源)を特定している
YES
Spotify・Apple Music等の個人プランを業務利用していない
YES
JASRAC・NexTone契約の対象エリア・収容人員と現況が一致している
要確認
宴会・婚礼の生演奏について、著作権処理責任者を契約書で明確化している
要確認
BGM動画コンテンツ(SNS投稿・館内動画等)の楽曲利用許諾を個別に確認している
該当施設のみ
実務層への行動リスト
BGM著作権適合・是正までの7つの手順
やることいつまでに担当
館内BGM再生エリアと使用楽曲・音源サービスを棚卸し今四半期末総務・支配人
JASRAC料金シミュレータで自施設の年額を試算し、USEN・OTORAKU見積と比較棚卸し完了後30日以内経営企画・経理
契約形態を決定し、JASRAC・NexToneまたは配信事業者と契約締結試算完了後60日以内総務・支配人
客室・共用部でSpotify・Apple Music個人プラン流用がないか現場点検即時〜月次フロント・客室係
宴会・婚礼契約書に「著作権処理は主催者責任」条項を明記次回契約書改訂時宴会支配人・法務
SNS投稿・館内動画の使用楽曲ライセンスを確認(特に外部音源使用分)投稿前・四半期監査マーケ・広報
年1回、契約範囲(対象エリア・収容人員)と現況の突合せを経営会議へ報告年1回(契約更新月)支配人→経営層

Q.よくある質問

著作権処理せずにBGMを流していた場合、どうなりますか?
JASRAC・NexTone等から使用料の支払い請求が届きます。過去の使用期間に遡及して請求されるのが一般的で、悪質な場合は遅延損害金・警告書送付・訴訟提起に発展します。過去の判例では、無許諾BGM利用の小売・飲食・宿泊施設に対して数十万〜数百万円の支払い命令が出た事例があります。包括契約の方が圧倒的にコスト効率が良いです。
YouTubeの音楽をBGMに使っても大丈夫ですか?
原則として、YouTubeの利用規約は個人視聴を前提としており、業務BGMとしての再生は規約違反です。YouTube Premiumも商業利用への保証は提供していません。業務BGMには事業者向けの音楽サブスクサービス(USEN、OTORAKU、Soundtrack Your Brand等)を使用してください。
客室テレビで地上波放送を流す場合は著作権処理が必要ですか?
地上波テレビ放送の客室視聴は、放送法上「家庭視聴の延長」として整理されており、ホテル側で別途の著作権処理は不要です(NHK受信料は別途必要)。ただし、CS・BS有料放送・VOD等の有料コンテンツを客室視聴可能にする場合は、提供元との業務用契約が別途必要です。
宴会・婚礼で生演奏・DJ持込が入る場合の著作権は?
原則として主催者(新郎新婦・パーティー幹事等)が著作権処理の責任主体になります。ブライダル業者がJASRACと包括契約を結んでいるケースが多く見られます。会場提供のみの宿泊施設は自分自身の責任は軽いものの、契約書に「著作権処理は主催者責任」である旨を明記しておくことが重要です。
複数施設を運営する場合、契約はどうすればいいですか?
JASRAC・NexToneは事業者単位の包括契約が可能で、施設数に応じた料金体系があります。施設別個別契約より総額で割安になることが多いです。USEN等の音楽配信サービスも複数拠点契約割引があり、本社一括契約が実務上の標準です。
JASRAC契約料金は経費として認められますか?
はい、業務上必要な著作権使用料は全額損金算入可能な経費です。勘定科目は「支払手数料」「業務委託料」「広告宣伝費」等で処理します。詳細は顧問税理士にご確認ください。