Q.簡易宿所とは何か?
簡易宿所営業とは、旅館業法上の4つの営業種別の一つで、宿泊する場所を多数人で共用する構造および設備を主とした宿泊施設の営業を指します。2018年6月の旅館業法改正で旅館営業と ホテル営業が「旅館・ホテル営業」に一本化されたため、現在の営業種別は以下の3つです。
| 営業種別 | 主な特徴 | 代表例 |
|---|---|---|
| 旅館・ホテル営業 | 施設を設けて宿泊料を受け、人を宿泊させる営業(下宿営業以外で簡易宿所以外のもの) | ホテル、旅館、温泉旅館、ビジネスホテル |
| 簡易宿所営業 | 多数人で共用する構造・設備を主とした宿泊施設 | ゲストハウス、カプセルホテル、山小屋、民宿、ペンション |
| 下宿営業 | 1か月以上の期間を単位として宿泊料を受け、宿泊させる営業 | 下宿(学生寮等は除く) |
簡易宿所は「共用」が特徴です。共有ラウンジ・共有バス・ドミトリー客室などを中心に、複数の宿泊客が同じ空間・設備を使いながら滞在する形態が典型例です。個室のみで運営する場合でも、客室延べ床面積の要件を満たせば簡易宿所で申請することは可能で、実際にゲストハウスやペンション型の民宿で個室+共有設備の構成は広く見られます。
Q.条文原文で見る簡易宿所の定義は?
簡易宿所の定義は旅館業法第2条第3項に規定されています。
第1項は営業全般の定義、第2項は旅館・ホテル営業を規定しているため、簡易宿所はそれらを除く「多数人で共用する構造・設備を主とする」宿泊営業として位置付けられます。
営業許可制の根拠は同法第3条に規定されており、都道府県知事(保健所設置市・特別区にあっては市長または区長)の許可が必要です。許可を受けずに営業した場合は、同法第10条により6月以下の懲役または100万円以下の罰金に処されます。無許可営業の是正命令も同法第8条により可能です(公表値参照)。
Q.構造設備基準(施行令第1条第3項)の中身は?
簡易宿所の構造設備基準は、旅館業法施行令第1条第3項に規定されています。客室の延べ床面積要件は、収容定員によって計算式が変わります。
一 客室の延べ床面積は、33平方メートル(法第3条第2項の許可の申請に当たつて宿泊者の数を10人未満とする場合にあつては、3.3平方メートルに当該宿泊者の数を乗じて得た面積)以上であること。
二 階層式寝台を有する客室にあつては、上段と下段の間隔は、おおむね1メートル以上であること。
三 適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。
四 当該施設に宿泊しようとする者の需要を満たすことができる適当な規模の入浴設備を有すること。ただし、近接して公衆浴場がある等入浴に支障を来さないと認められる場合は、この限りでない。
五 適当な数の便所を有すること。
六 その設置場所が法第3条第3項各号に掲げる施設の敷地(略)の周囲おおむね100メートル以内にある場合には、当該施設における清純な施設環境が著しく害されるおそれがないと認められる構造設備を有すること。
七 その他都道府県が条例で定める構造設備の基準に適合すること。
客室延べ床面積の計算
2016年4月の施行令改正で、宿泊者定員が10人未満の施設は客室延べ床面積を3.3㎡×定員まで緩和する扱いが明文化されました。これにより、小規模ゲストハウス・家主居住型の民宿などが簡易宿所として許可を取りやすくなっています。
| 宿泊者定員 | 必要な客室延べ床面積 | 備考 |
|---|---|---|
| 1人 | 3.3㎡以上 | 2016年施行令改正で緩和 |
| 5人 | 16.5㎡以上 | 3.3㎡×5 |
| 9人 | 29.7㎡以上 | 3.3㎡×9 |
| 10人以上 | 33㎡以上(一律) | 定員を増やしても33㎡が下限 |
設備要件の具体
- 換気・採光・照明・防湿・排水: 客室および共用部に適当な設備。基準値は自治体条例で具体化
- 入浴設備: 施設内に浴室が原則。近接公衆浴場で代替可(自治体により要件あり)
- 便所: 宿泊者数に対して適当な数。男女別・車椅子対応等の上乗せ条例に注意
- 洗面設備: 全ての客室に洗面台が必要か、共用洗面で足りるかは自治体条例で判断が分かれる
- 清純な施設環境: 学校・児童福祉施設等の敷地から概ね100m以内の場合、境界付近の構造(窓配置・出入口・看板)を配慮する必要あり
このほか、消防法上の自動火災報知設備・誘導灯・消火器等の設備義務も並行して発生します。消防設備の詳細は旅館営業と消防法 ― 自動火災報知設備・特定小規模施設用・設置猶予期限の実務をご参照ください。
Q.許可取得までの実務フローは?
簡易宿所営業許可の取得は、保健所事前相談 → 関連部署確認 → 申請 → 現地検査 → 許可証交付の順で進みます。物件取得前の事前確認が最も重要です。
- 物件の事前確認(取得前)
用途地域(住居専用地域は不可の場合あり)、既存建物の用途、建築基準法適合、消防法上の用途区分、上乗せ条例の有無を保健所・建築指導課・消防本部で確認。この段階で要件を外していると、物件取得後に許可が下りず投資が無駄になる。 - 保健所への事前相談
図面(平面図・立面図・客室配置図)を持参し、保健所生活衛生課(名称は自治体で異なる)へ事前相談。客室延べ床面積の計算、入浴設備・便所・洗面設備の配置、換気・採光の確保方法など、構造設備基準への適合について指導を受ける。 - 関連部署との調整
建築基準法の用途変更確認申請(建築指導課)、消防法設備の事前協議(消防本部予防課)、水質検査・排水検査(自治体により)を並行して進める。住居系用途地域での営業可否も合わせて確認。 - 工事・設備設置
事前相談で指導された内容に基づき、構造設備の工事を実施。工事完了後の自主確認で基準適合を確認する。 - 営業許可申請
旅館業営業許可申請書、施設の構造設備の概要、付近の見取図、建物の平面図、水質検査結果、消防法令適合通知書、登記事項証明書(法人の場合)等を保健所に提出。申請手数料の納付。 - 現地検査
保健所職員が現地で構造設備基準への適合を確認。不備があれば是正指導。是正後に再検査。 - 営業許可証の交付・営業開始
検査適合後、営業許可証が交付される。申請から許可までの標準日数は自治体により異なり、事前相談を含めると2〜3か月程度を見込むケースが多い(公表値参照)。
営業許可後の主な義務
許可取得後も、宿泊者名簿の備え付け(旅館業法第6条)、衛生管理(同第4条)、宿泊拒否制限(同第5条)、構造設備を変更する場合の変更許可・届出などの義務が継続します。2023年改正旅館業法の内容は2023年改正旅館業法の実務影響 ― カスハラ対応・特定感染症への措置をあわせてご確認ください。
Q.民泊(住宅宿泊事業)との選択判断は?
宿泊業を始める際に最初に決めるのが、旅館業法の簡易宿所か、住宅宿泊事業法の民泊(住宅宿泊事業)か、という選択です。両者は根拠法・手続・営業日数・構造設備が大きく異なります。
| 比較項目 | 簡易宿所(旅館業法) | 民泊(住宅宿泊事業法) |
|---|---|---|
| 根拠法 | 旅館業法 | 住宅宿泊事業法(民泊新法) |
| 手続 | 営業許可(都道府県知事等) | 届出(都道府県知事等) |
| 営業日数上限 | なし(通年営業可) | 年180日以内 |
| 客室延べ床面積 | 33㎡(10人未満は3.3㎡×定員)以上 | 規定なし(住宅の居室要件あり) |
| 用途地域 | 住居専用地域は原則不可(自治体で上乗せ) | 住居専用地域でも営業可(条例で制限あり) |
| 構造設備 | 施行令第1条第3項で具体的要件 | 住宅の性能・家主居住/不在別に要件 |
| 消防法用途 | (5)項イ(特定防火対象物) | 原則(5)項イ(家主居住型で例外あり) |
| 定期報告 | なし(変更時のみ届出等) | 2か月ごと(宿泊日数・人数等) |
| 標準的な取得期間 | 2〜3か月程度 | 約1か月程度(公表値参照) |
選択の判断基準
両制度のどちらを選ぶかは、営業日数・初期投資・物件の用途地域の3点で判断します。
- 簡易宿所が適する場合: 通年営業で安定収益を狙う/観光地の商業系用途地域/初期投資を回収する計画がある/将来的にホテル・旅館への拡大も視野に入れる
- 民泊が適する場合: 週末中心で年180日以内の副業運用/住居専用地域の物件で簡易宿所が不可/構造設備の改修コストを避けたい/まず届出で始めて様子を見たい
民泊の年180日制限の詳細は住宅宿泊事業法 年間180日上限の実務運用 ― 起算日・日数算定・定期報告で解説しています。両制度の詳細比較は旅館業法と民泊新法の違い ― 2026年版 施設区分・営業許可・届出の実務ガイドもご参照ください。
Q.具体的な該当例は?
ケース 02は物件取得前の用途地域確認が欠落していた典型例です。物件取得前に保健所・建築指導課・消防本部の3か所へ事前相談することで、大半のトラブルは回避できます。
Q.着手前に何を確認すべきか?
- 保健所生活衛生課に事前相談し、指導内容を議事録化する
- 自治体の上乗せ条例(構造設備・人的要件)を条例本文で確認する
- 物件取得契約前に、建築・消防・保健所の3部署でNG要因がないか確認する
- 年間営業日数・収支計画を民泊と比較し、簡易宿所の許可取得コストが合うか検討する
- 申請から許可まで2〜3か月を見込み、営業開始予定日から逆算してスケジュールを組む
| やること | いつまでに | 担当 | |
|---|---|---|---|
| 用途地域の確認(都市計画課で第一種・第二種低層住居専用地域の適用除外を確認) | 物件取得契約前 | 経営企画・不動産担当 | |
| 保健所生活衛生課に事前相談(平面図・客室配置図を持参、客室延べ床面積を計算) | 物件取得契約前 | 経営企画・設計担当 | |
| 消防本部予防課で用途区分(5)項イ該当の確認と自火報・誘導灯・消火器の設置協議 | 物件取得契約前 | 設計担当・防火管理者 | |
| 建築指導課で用途変更確認申請(200㎡超の特殊建築物転用)の要否判定 | 取得契約前〜工事着工前 | 設計担当・建築士 | |
| 自治体上乗せ条例(構造設備・人的要件)を条例本文で確認し、議事録化 | 事前相談時 | 経営企画・総務 | |
| 営業許可申請書類一式(平面図・水質検査結果・消防法令適合通知書等)を準備 | 工事完了時 | 総務・経営企画 | |
| 現地検査で指摘された不備を是正し、再検査のスケジュール調整 | 検査指摘後30日以内 | 設計担当・支配人 | |
| 許可証交付後、宿泊者名簿・衛生管理・消防訓練の運用体制を整備 | 営業開始前 | 支配人・フロント責任者 |
Q.よくある質問(FAQ)
Q1. 住宅街の戸建てで簡易宿所は可能か?
用途地域によります。商業地域・近隣商業地域・準住居地域などでは可能な場合が多いですが、第一種・第二種低層住居専用地域では旅館業(簡易宿所を含む)の建築が原則として認められません(建築基準法第48条・別表第二)。物件取得前に、所在地の用途地域を都市計画課等で確認してください。
Q2. 既存住宅を簡易宿所に改装する際、建築確認は必要か?
用途変更に該当するため、特殊建築物への用途変更で200㎡を超える場合は確認申請が必要です(建築基準法第87条)。200㎡以下でも、構造変更・増築を伴う場合は別途確認申請の対象となります。具体的な規模判定は建築指導課への事前相談で行ってください。
Q3. 簡易宿所と旅館・ホテル営業はどう違うのか?
旅館・ホテル営業は1室あたりの客室面積・ベッド寸法など個別要件が2018年の施行令改正以降は簡素化されていますが、依然として1室単位で一定の居住性が求められます。一方、簡易宿所は「多数人共用の構造」が主で、ドミトリー・相部屋・カプセルなど共用寝台を認めるのが特徴です。収容人員・経営形態・投資規模に応じて選びます。
Q4. 許可を受けた後、構造を変更する場合の手続は?
客室の増減・浴室/便所の配置変更など、構造設備に関わる変更は変更許可または変更届出の対象です(旅館業法第3条第3項、規則第4条等)。事前に保健所と協議し、工事前に必要な手続を済ませてから着工してください。
Q5. 許可申請の費用はどれくらいかかるのか?
申請手数料は自治体により異なりますが、22,000円前後が一般的です(公表値参照)。このほか、工事費・水質検査費・図面作成費・建築確認費用が別途かかるため、全体の初期費用は物件・規模により大きく変動します。詳細は管轄保健所・建築士・行政書士等に見積もりを依頼してください。
