Q.宿泊旅行統計調査とは何か?

観光庁『宿泊旅行統計調査』は、国内のすべての宿泊施設を対象として、延べ宿泊者数・客室稼働率・外国人延べ宿泊者数などを月次で公表する基幹統計です。統計法に基づく一般統計調査として実施され、2007年の制度創設以来、日本の宿泊需給を把握する国の公式データとして機能しています。

調査の基本設計

  • 対象: ホテル・旅館・簡易宿所・下宿等の宿泊施設。民泊(住宅宿泊事業)は対象外
  • 調査方法: 一定規模以上の施設は全数調査、それ未満の施設は標本(抽出)調査
  • 調査頻度: 月次。第1次速報・第2次速報の二段階
  • 地域粒度: 全国・都道府県別・三大都市圏/地方ブロック別
  • 施設粒度: 施設タイプ別(6区分)・客室規模階級別

統計の年間スケジュール

時期公表資料内容
翌々月下旬第1次速報従業者数10人以上施設の集計(速報性重視)
翌々々月下旬第2次速報全施設(10人未満も含む)の集計(網羅性向上)
翌年6月頃年間値(確報)暦年・年度ベースの確定値
通年e-Stat公開データベースから時系列・都道府県別の詳細取得可能

Q.主要指標の定義は?

実務で最も混乱が起きやすいのが「延べ宿泊者数」と「実宿泊者数」、そして「客室稼働率」と「定員稼働率」の違いです。使う場面が違うので、両方の意味を正確に押さえましょう。

DEFINITION 1
延べ宿泊者数(人泊)
宿泊人数×泊数。1人が3泊すれば3人泊。宿泊需給の総量を測る中核指標
DEFINITION 2
実宿泊者数(人)
ユニークな宿泊者の実数。1人が3泊しても1人。観光庁の月次速報では原則提示されず、年次ベースで参考値
DEFINITION 3
客室稼働率
提供客室のうち販売できた割合。施設の営業効率を測る
DEFINITION 4
定員稼働率
提供収容力のうち埋まった割合。1室あたりの利用人数変化が読める
DEFINITION 5
外国人延べ宿泊者数
延べ宿泊者数のうち国籍が日本以外の人泊数。上位10市場の内訳あり
DEFINITION 6
宿泊目的比率
レジャー・ビジネス・その他の目的別比率。都道府県別で傾向が大きく異なる
よくある誤用:「宿泊者数」とだけ書かれた数値が「延べ」なのか「実」なのか、必ず明記を確認してください。観光庁の公表資料は原則として「延べ宿泊者数」で統一されていますが、民間メディアでは混在が見られます。

Q.稼働率の計算式は?

観光庁の客室稼働率・定員稼働率は、以下の計算式で定義されています。

客室稼働率

客室稼働率 = 延べ利用客室数 ÷ 延べ提供客室数 × 100 ※ 延べ提供客室数は、客室数 × その月の営業日数

ツインルームをシングルユースで1室販売したとしても、客室稼働率の計算では「1室販売」としてカウントされます。つまり1室あたりの利用人数には依存しない指標です。

定員稼働率

定員稼働率 = 延べ宿泊者数 ÷ 延べ収容人員 × 100 ※ 延べ収容人員は、定員(客室数×客室あたり定員) × その月の営業日数

ツインルーム(定員2名)をシングルユースで使うと、定員稼働率は客室稼働率の半分になります。1室あたりの利用人数が下がるとその差が開きます。

両者のギャップから読めること

  • 客室稼働率 > 定員稼働率: シングルユース比率が高い。ビジネス需要中心の月・施設
  • 客室稼働率 ≒ 定員稼働率(比率が近い): 家族・カップル・グループ需要が中心
  • 客室稼働率 < 定員稼働率: 通常はあり得ない(定員超過や布団追加でのみ発生)
実務ヒント:同じ稼働率85%でも、定員稼働率が50%なら「高稼働だが1室あたり1人利用中心」、定員稼働率が75%なら「高稼働かつ1室複数人利用中心」と全く異なる需要構造です。施設の商品設計(ツインの有無、家族向けファミリールーム設定等)に直結する視点です。

Q.施設タイプ6区分はどう違う?

観光庁の宿泊旅行統計は、以下の6区分で施設タイプを分類しています。稼働率の水準と季節パターンが施設タイプごとに全く異なるため、自施設の比較対象は必ず同タイプで取る必要があります。

区分特徴稼働率の山谷
ビジネスホテルシングル中心、都市型、出張需要平日>週末。7月・12月は連休で谷
シティホテル都心大型、宴会・MICE需要春・秋が山、2月・8月上旬が谷
リゾートホテル観光地立地、長期滞在・家族需要地域により冬山/夏山。繁閑差が大
旅館和風、温泉地立地、食事付き中心連休・週末に集中。平日閑散
簡易宿所ゲストハウス・カプセル、低単価外国人比率高く、インバウンド連動
その他会社の寮・保養所、民宿等用途特化で通常の宿泊需給とは連動しにくい

施設タイプ別の注目ポイント

  • ビジネスホテル: 全国平均稼働率は高水準が続く。出張需要とインバウンドの両輪
  • シティホテル: MICE・宴会の戻りが稼働率を左右する。多客期のADR伸びが重要
  • リゾートホテル: 客室単価(ADR相当)が高水準で、定員稼働率が重要指標
  • 旅館: 施設軒数が減少傾向。1軒あたりの稼働は改善方向
  • 簡易宿所: 2020年以降、簡易宿所の新規開業が増加。訪日客の低価格帯需要を吸収

Q.三大都市圏の定義と地方との比較

観光庁の宿泊旅行統計における「三大都市圏」は、以下7都府県を指します。残り40道府県が「地方」としてまとめられ、地域政策の効果検証に使われます。

三大都市圏の7都府県

  • 首都圏: 東京都・神奈川県・千葉県
  • 中京圏: 愛知県
  • 近畿圏: 京都府・大阪府・兵庫県
補足:三大都市圏の定義は国の各統計で若干異なります。観光統計の文脈では上記7都府県が標準で、国勢調査や地価公示など他統計での定義と取り違えないよう注意してください。

地方分散指標として使う際の視点

  1. 延べ宿泊者数シェア: 三大都市圏 vs 地方の比率推移。地方シェアが上がれば分散が進行
  2. 外国人延べ宿泊者数シェア: 外国人の地方分散が政策重点。都道府県別推移が鍵
  3. 客室稼働率の水準差: 三大都市圏と地方の稼働率ギャップが縮まっているか
  4. 成長率比較: 前年同月比の成長率が、地方 > 三大都市圏 なら分散が機能中
第5次観光立国推進基本計画:2026-2030年度の観光政策では、地方滞在の長期化と地方分散が重点テーマです。計画全体像は第5次観光立国推進基本計画 ― 2026-2030年度の方向性と数値目標をご覧ください。

Q.第1次速報・第2次速報・年間値の違いは?

同じ調査月の数値が3段階で段階的に精度が上がる構造になっています。意思決定の重さに応じて、どの版を使うかを決めます。

公表時期対象実務用途
第1次速報翌々月下旬従業者数10人以上の施設月次プロモ・在庫調整
第2次速報翌々々月下旬すべての施設(10人未満含む)四半期レビュー・社内KPI
年間値翌年6月頃暦年・年度ベースの確定値予算策定・外部資料

第1次速報と第2次速報のギャップ

第1次速報は従業者10人以上の施設集計のみで、小規模旅館・簡易宿所が含まれません。第2次速報で網羅性が確保されると、地方・旅館・簡易宿所の数値が加わって稼働率や延べ宿泊者数が再評価されます。地方分散や民泊周辺の動向を見たい場合は第2次速報が必須です。

2026年1月分からの注意:2026年1月分の調査から層化基準が従業者数→客室数に変更されました。新系列との時系列接続には当面、注記参照が必要です。詳細は2026年2月 宿泊旅行統計 第1次速報解説の該当セクションで整理しています。

Q.ありがちな読み間違いは?

1. 民泊を含めて語ってしまう

宿泊旅行統計には民泊(住宅宿泊事業)は含まれません。民泊の実績は別途、観光庁民泊制度ポータルで「住宅宿泊事業の宿泊実績」として公表されます。両者の関係は旅館業法と民泊新法の違い ― 2026年版 施設区分・営業許可・届出の実務ガイドで整理しています。

2. JNTO訪日外客数と単純合算してしまう

JNTO訪日外客数は「入国人ベース」、宿泊統計の外国人延べ宿泊者数は「延べ人泊ベース」です。単位が違うため足し算・引き算は意味を持ちません。両者は比率の変化で対比するのが正しい使い方です。JNTO側の詳細はJNTO訪日外客数の算出方式を解説をご覧ください。

3. 稼働率の比較対象が施設タイプミックス

「全国平均の稼働率」には全施設タイプが含まれます。自施設がビジネスホテルなら、比較対象も同タイプ・同地域ブロックの稼働率に揃えないと、比較の意味がありません。

4. 速報の値を年次目標の根拠にする

速報は翌月以降の修正があり得ます。年間目標・中期計画の根拠には、年間値(翌年6月頃公表)を使うのが原則です。

5. 従業者数の層化基準変更を無視する

2026年1月分からの調査設計変更により、前年同月比が旧系列と厳密比較できない期間が続きます。注記を必ず確認してください。

Q.自施設KPIへの落とし込み方は?

  • 毎月の定点観測: 同地域ブロック・同施設タイプの客室稼働率と、自施設稼働率を並べる
  • 定員稼働率も同時監視: 客室稼働率だけだと、利用人員構造の変化を見落とす
  • 外国人比率の月次トラッキング: 自施設の外国人延べ宿泊者シェアと、都道府県平均を対比
  • 季節調整の自動化: 施設タイプごとの月次パターンから、平準化した前年比を計算
  • 速報→第2次速報の差分チェック: 速報と第2次速報でのズレが自社想定と合うかを毎月検証

投資判断での使い方

新規出店・大規模改修の意思決定では、年間値(確報)を2〜3年分遡って都道府県別・施設タイプ別の時系列を組むのが実務的です。補助金活用の検討と併せて需給構造を見る場合、観光DX補助金 令和8年度まとめの対象制度もあわせてご覧ください。

宿泊税との関係:宿泊需給の変化と宿泊税制度改正(2026年ラッシュ)は、客単価・ADRに直接影響します。宿泊税の全国マップは2026年4月施行 宿泊税ラッシュ総まとめで整理しています。
実務層向け・担当と締切

宿泊旅行統計の読み込み運用タスク5件

やること いつまでに 誰が
同地域ブロック・同施設タイプの客室稼働率と自施設稼働率を並べた月次ダッシュボード整備 翌々月末 レベニュー/経営企画
客室稼働率と定員稼働率のギャップを毎月記録し、需要構造変化を検知 第2次速報公表後1週間以内 レベニュー
外国人延べ宿泊者シェアを都道府県平均と対比し、市場別施策の効果検証 月次経営会議前 マーケ/予約
第1次→第2次速報の差分を追い、地方・簡易宿所の影響を別枠で試算 第2次速報公表後1週間以内 経営企画
予算策定・中期計画は確報(翌年6月)ベースに揃え、速報ベースと混在させない社内ルール化 予算策定サイクル開始前 経営企画/経理

Q.よくある質問

Q1. 延べ宿泊者数と実宿泊者数はどちらを見るべきですか?

月次速報では原則として延べ宿泊者数(人泊)が公表されます。延べ人泊は宿泊需給の総量を示すため、稼働率・RevPAR計算と整合しやすく、実務では延べを使うのが標準です。実宿泊者数(ユニーク顧客数)は年次ベースの参考値で、マーケティング的な「何人のお客様が来たか」を語る場面で限定的に使われます。

Q2. 客室稼働率のADR連動性は?

宿泊旅行統計は客室稼働率を公表しますが、ADR(平均客室単価)は公表していません。ADRはSTRやSTR Globalなどの民間調査やOTAデータで補完するのが業界標準です。観光庁統計と民間統計を組み合わせることで、稼働率×ADR→RevPARの完全な需給像が描けます。

Q3. 三大都市圏のどれを重点で見るべきですか?

国の政策観点では三大都市圏と地方の二分が標準ですが、実務では首都圏・中京圏・近畿圏を分けて見るほうが意思決定に有用です。たとえばインバウンドの回復速度は3圏で異なり、MICE需要の厚さも違います。e-Stat上で都道府県別に個別取得できるので、自施設の商圏に合わせて抽出してください。

Q4. 住宅宿泊事業(民泊)のデータと合体できますか?

厳密な合算は推奨されません。定義・調査方法・対象期間の取り方が異なるため、別系列として併読する形が標準です。ただし、民泊のシェアが上昇した地域では「宿泊旅行統計+民泊実績」で需給全体を眺めることに意味が出てきます。

Q5. 宿泊旅行統計の生データはどこで入手できますか?

e-Stat(政府統計の総合窓口)で都道府県別・施設タイプ別の時系列データが取得可能です。PDFの報道発表資料は観光庁の宿泊旅行統計調査ページから入手できます。API取得が必要な場合はe-StatのAPI仕様を確認してください。