研究が示したこと欧州の宿およそ3万軒を調べた研究で、直販や他のOTAで高めの料金を出す宿ほど、そのOTAの検索結果で上位に出やすい関係が確認されました。直販だけを露骨に安くすると、OTAでの露出を失う側に働きます。
根拠メタサーチのKayak上に並ぶBooking.com・Expedia・宿の直販サイトの価格と、OTA内での検索順位を突き合わせた実証研究です(Hunold, Kesler & Laitenberger、Marketing Science、2020年)。
読み方の注意観察されたのは相関で、OTAが順位を意図的に操作した証拠ではありません。日本の楽天・じゃらんの順位算定は非公開で、欧州と同じ仕組みがあるとは断定できません。
自館ですることOTAでは競争力ある価格を保ち、直販は公開の安値ではなく会員価格・非公開特典・限定プランで差をつけます。誰でも見える公開レートは揃えるのが基本です。
位置付け研究ノート第1弾。宿の値づけと集客に効く学術研究を、実務の言葉に置き換えて読み解くシリーズです。
01何がわかったか ― 他の販路で高い宿ほど、OTAで上位に出やすい
公式サイトの宿泊料金を、Booking.comより一段下げた。手数料を払わない直販の比率を、少しでも上げたい。多くの宿が同じ手を打ちます。ところが欧州の宿およそ3万軒を調べた研究は、その一手がOTAでの表示順位を下げる側に働いていた、と報告しました。
研究チーム(Hunold・Kesler・Laitenberger)は、メタサーチのKayakを使いました。Kayakには、同じ宿の同じ日程が、Booking.com・Expedia・宿の直販サイトなど複数の販路の価格で並びます。ここに、各OTAの中でその宿が何番目に表示されるかを重ね合わせ、価格と順位の関係を測りました。見つかったのは、次の関係です。
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他の販路で高い宿は、順位が上がりやすい
ある宿が、そのOTA以外の販路(直販や別のOTA)で相対的に高い料金を出しているほど、そのOTAの検索結果では上のほうに表示される傾向がありました。OTA内の掲載価格そのものだけでは説明のつかない、販路間の価格差と順位の結びつきです。
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他の販路で安い宿は、順位が下がりやすい
裏返せば、直販や他OTAで安く売っている宿ほど、そのOTAでは下のほうに沈みやすいことになります。客にとっては「一番安い選択肢が検索の上位に出てこない」状態で、探しやすさが犠牲になります。研究がconsumer protection(消費者保護)を論点に置いたのはこのためです。
直販を安くする狙いは、手数料の節約と、客との直接の関係づくりにあります。その狙い自体は正しい。ただ、公開の場でOTAより露骨に安いレートを出すと、OTAの検索結果という「多くの客が最初に見る棚」で、後ろに回される力が働く。研究が測ったのは、この見えにくい副作用です。
02なぜOTAは、順位で価格を揃えさせるのか
なぜ、他で安く売る宿を上位に出さないのか。理由は、OTAの稼ぎ方にあります。OTAの収益は、成約1件ごとの手数料です。同じ宿が直販でもっと安く売れば、客はOTAの一覧で宿を見つけ、そのまま宿の公式サイトへ移って予約する。OTAにとっては、自分の画面で探させておいて、売上を他所に持っていかれる形になります。
この「ただ乗り」を抑える手段の一つが、検索順位です。他で安く売る宿を上位に出さなければ、その宿はOTA経由の露出を失う。露出を保ちたければ、直販や他OTAの価格を上げて揃えるしかない。順位を握るOTAは、価格を揃えさせる圧力を、契約ではなく表示の並びを通じてかけられます。研究が「価格規律(price discipline)」と呼ぶのは、この構図です。
補足.宿から見ると、OTAは集客の窓口であると同時に、価格の主導権を握る相手でもあります。手数料を避けて直販を安くするほど、OTAの中では不利になりうる。この綱引きの構造を知っておくと、「なぜ直販を伸ばしにくいのか」が値づけの問題として見えてきます。
03「操作の証拠」なのか ― 研究が慎重に言っていること
ここには、正確に扱うべき一線があります。研究が見つけたのは「他の販路で高い宿ほどOTAで上位にいる」という関係であって、「OTAが順位をこう操作した」という内部の証拠ではありません。論文の言葉でも、観察された関係は価格規律という仮説と「整合的」だ、と述べるにとどまります。相関と因果は分けて読む必要があります。
この違いは、実務の判断に効きます。「直販を1円下げたら順位がいくつ下がる」という単純な式があるわけではありません。順位は、立地・評価・在庫・広告など多くの要素で動きます。価格差はそのうちの一つとして関係が見えた、という段階です。だから「直販を安くしたら必ず埋もれる」と身構える必要はありません。読み取るべきは、公開の場で露骨に安いレートを出すことには、露出を失うリスクが伴うという傾向です。
注意.「直販で安く売る宿は、OTAに意図的に順位を下げられている」と言い切る解説を見かけます。研究の結論はそこまで踏み込んでいません。断定は独占禁止法の評価にも関わる強い主張で、観察された相関だけでは支えきれない。自館の方針を決めるときも、「操作されている」という前提ではなく、「価格差と順位に関係がある」という事実から組み立てるのが安全です。
04楽天・じゃらんでも同じことが起きるか ― 契約のパリティは消えたが
日本でも、料金を揃えさせる仕組みは問題になってきました。楽天トラベルは2019年、他サイトより安くしないことを宿に求める最恵国待遇条項(パリティ条項)を撤廃し、公正取引委員会が確約計画を認定しています。この確約手続きは、制度が導入されてから初めての適用でした。Booking.comも2022年に最安値条項を撤廃し、同じく確約認定を受けています。契約で「他より安くするな」と縛ることは、独占禁止法上の問題として整理が進みました。
ここで、2つの異なる話を切り分ける必要があります。1つは、いま述べた契約上のパリティ条項。明文で価格を縛るもので、日本では規制の対象になりました。もう1つは、今回の研究が示した検索順位を通じた事実上の規律。契約の条文ではなく、表示の並びで同じ効果を出しうるものです。前者が規制で消えても、後者は見えにくい形で残りうる。表の条項が閉じても、順位という裏口が別に開いている、という関係です。
| 仕組み | 効かせ方 | 日本での現状 |
契約上のパリティ条項 (最恵国待遇・MFN) |
契約書で「他より安く売らない」ことを明文で義務づける |
楽天は2019年、Booking.comは2022年に撤廃し確約認定。独禁法上の問題として整理済み |
検索順位を通じた規律 (今回の研究) |
他で安く売る宿を上位に出さないことで、価格を揃える圧力をかける |
欧州データで相関が観察された段階。日本のOTAの順位算定は非公開で、同じ仕組みの有無は断定できない |
楽天・じゃらんの順位がどう決まるかは公開されていません。だから欧州の研究がそのまま当てはまるとは言えません。ただ、「販路間で価格を揃える」動機はどのOTAにも共通します。契約という表の手段が使いにくくなった分、順位のような見えにくい手段の重みが増している可能性は、頭の隅に置いておく価値があります。
05自館の価格をどう設計するか ― 公開レートは揃え、囲い込みで差をつける
直販を伸ばす筋は、公開レートの安さそのものではありません。誰でも見られる料金は各OTAと揃えておき、直販でしか手に入らない価値で「公式サイトから予約する理由」を作る。公開レートを揃えたまま価値で差をつければ、順位を下げる力を避けながら、直販の比率を上げられます。具体的には、次の4つが軸になります。
1
会員価格 ― ログイン後だけの非公開レート
誰でも見える公開レートは揃えたまま、会員登録・ログインした客にだけ一段安い料金を出します。公開の価格比較には乗らないため、順位に影響しにくい形で直販を有利にできます。
置き所
まず会員登録の導線を予約エンジンに用意し、会員限定レートを「ログイン後に表示」する。公開ページにはOTAと同じ料金を出す。
2
価格ではない特典で差をつける
料金を下げる代わりに、直予約にだけ付ける特典で魅力を上げます。アーリーチェックイン、レイトチェックアウト、ウェルカムドリンク、駐車場無料など。価格は揃えたまま、実質的な得を直販側に寄せられます。
置き所
「公式予約特典」として明記する。OTAの掲載条件と重複しない、自館だけで出せる特典を選ぶ。
3
限定プラン ― OTAに出さない部屋・企画
特定の部屋タイプや、記念日・連泊・地元体験つきなどの企画プランを、直販だけで販売します。そもそもOTAに並ばない商品なら、価格比較の土俵に乗りません。
置き所
在庫の一部を直販専用に割り当てる。OTAには標準プランを、直販には標準+限定を並べる。
4
予約後の関係で戻ってもらう
一度直販で予約した客に、次回の会員限定オファーやリピーター優遇を届けます。価格勝負の一回きりでなく、2回目以降を直販に固定していく設計です。
置き所
予約時に取得した連絡先へ、規約の範囲でリピーター特典を案内する。LINEや会員メールを窓口にする。
要点.OTAでは競争力ある価格を保ち、露出を確保する。直販の優位は、公開の値引きではなく会員化と体験で作る。この2階建てにすると、順位を下げる力を避けながら手数料の外側で稼げます。
06自館で確かめる ― 順位と他販路の価格の関係を観察する
自館ではどうなっているか。欧州のデータを眺めるより、自分の宿で観察するほうが確実です。条件をそろえて定点観測すれば、直販の価格を動かした前後で、OTAの並びがどう変わるかを自分の目で確かめられます。次の手順で始められます。
自館のOTA順位と価格差を観察する段取り
| やること | 頻度の目安 |
| 観測条件を固定する(対象OTA・エリア・宿泊日・人数・並び順を「おすすめ順」に) | 最初に1回 |
| 同じ条件で、自館が検索結果の何番目に出るかを記録する(スクリーンショットも残す) | 週1回・同じ曜日時間 |
| そのとき直販・各OTAで自館の公開レートがいくらかを並べて控える | 順位の記録と同時 |
| 直販の公開価格を意図的に動かした週は、その前後で順位の変化を見る | 価格を変えた月 |
| 広告(OTA内の有料掲載)を使っている期間は分けて記録する(順位が広告で動くため) | 広告実施中 |
| 2〜3か月ぶん貯めて、価格差と順位に関係がありそうか自館の傾向を見る | 四半期ごと |
広告出稿・季節・在庫でも順位は動くため、1回の観測で結論は出ません。数か月ぶん貯めて初めて、価格差との関係が傾向として見えてきます。ここで確かめた自館の実態を、値づけの判断材料にしてください。宿泊需要そのものの読み方は宿泊統計の読み方、国・地域別の動きは国別の宿泊動向が土台になります。
この記事の限界.紹介した研究は欧州のメタサーチデータに基づき、観察されたのは相関です。日本の各OTAの順位算定は非公開で、同じ関係が国内にあるとは確認されていません。本記事は研究の読み解きと実務への示唆であり、特定OTAの挙動を断定するものではありません。
Q.よくある質問
直販を安くすると、必ずOTAで検索順位が下がりますか
必ずではありません。研究が示したのは「他の販路で高い宿ほどOTAで上位に出やすい」という相関で、価格を下げれば自動的に順位が落ちるという因果を証明したものではありません。ただし、直販だけを公開の場で露骨に安くすると、OTAでの露出を失う側に働くリスクは読み取れます。公開レートは揃え、直販の優位は別の形で作るのが安全です。
レートパリティ(最恵国待遇)条項は、今も日本で有効ですか
契約で明示的に縛るパリティ条項は、楽天トラベルが2019年に、Booking.comが2022年に撤廃し、いずれも公正取引委員会が確約計画を認定しています。契約上「他より安くするな」と縛ることは独占禁止法上の問題になりました。ただし、検索順位を通じて事実上同じ効果が出るかどうかは別の論点で、日本の各OTAの順位算定ロジックは非公開です。
会員価格や非公開特典なら、順位に響きませんか
理屈のうえでは響きにくくなります。研究やパリティが問題にするのは、誰でも見られる公開レートの比較です。ログイン後だけに出す会員価格や、価格ではない特典(アーリーチェックイン、連泊特典など)は、公開レートを揃えたまま直販の魅力を上げる方法です。ただしOTA側の判定基準は公開されていないため、確実に無影響とは言い切れません。
この研究は、どこの・どんなデータを使っていますか
メタサーチのKayak上に出るBooking.com・Expedia・宿の直販サイトの価格と、OTA内での検索順位を突き合わせています。対象は欧州を中心とする複数国の宿、約3万軒です。Hunold, Kesler & Laitenberger の研究として、2020年にMarketing Science誌に掲載されました。
結局、直販を伸ばすにはどうすればいいですか
公開レートの安値勝負ではなく、会員化と体験価値で差をつけるのが筋です。会員登録者だけの非公開レート、直予約特典、OTAに出さない限定プラン、電話やLINEでの相談導線などで、価格を揃えたまま「直販で予約する理由」を作ります。そのうえで自館のOTA順位を定点観測し、値づけを変えた前後の変化を見て調整します。