Q.2026年1〜2月の訪日宿泊市場、全体像は?

2026年は訪日インバウンドの回復から「定常拡大期」に移行した最初の年と位置づけられています。観光庁が2026年3月10日に公表した宿泊旅行統計調査(2026年1月分・第1次速報)によれば、外国人延べ宿泊者数は1,482万人泊(前年同月比+8.3%)と、1月単月としては過去最高を更新しました。

2026年1月 外国人延べ宿泊者数
1,482万人泊
前年同月比 +8.3% / 1月単月過去最高
日本人含む総延べ宿泊者数
3,891万人泊
外国人比率 38.1%
外国人比率 推移
38.1%
2024年1月 31.4% → 2025年1月 35.9% → 2026年1月 38.1%
2030年目標時点の見通し
約42%
6,000万人目標達成時の外国人比率試算

外国人比率(=外国人延べ宿泊者数 ÷ 総延べ宿泊者数)は38.1%に達し、2024年同月の31.4%、2025年同月の35.9%から継続上昇しています。この比率は2030年6,000万人目標達成時に約42%まで高まる見通しで、宿泊事業者の事業ポートフォリオは「日本人主軸」から「インバウンド主導」へとシフトしつつあります。

速報・確報の関係を踏まえた読み方

本記事で扱う2026年1月の数値は第1次速報値です。第2次速報・確報・修正確報の各段階で数値は微修正されますが、市場別の順位や全体トレンドは確報段階でも逆転することはほぼありません。修正幅の典型値や読み解き方は 月別速報vs確報の修正幅と意思決定タイミング を参照してください。

速報値の読み方注意:都道府県別・施設タイプ別の細かい構成比は確報段階で1〜3pt程度修正されることがあります。経営判断に使う際は「上位市場の順位」「対前年比の方向感」を中心に読み、絶対値は確報まで暫定として扱うのが安全です。

Q.上位10市場のランキング、どう動いたか?

2026年1月の延べ宿泊者数を国・地域別に整理すると、中国本土が韓国を抜いて2か月連続の首位となりました。背景には2025年12月のビザ要件緩和(個人観光ビザ有効期間延長)と春節(2026年は2月17日)に向けた1月後半からの先行需要があります。

順位国・地域延べ宿泊者数(万人泊)前年同月比シェア
1中国本土318+24.6%21.5%
2韓国289-3.2%19.5%
3台湾198+11.8%13.4%
4米国112+9.1%7.6%
5香港87+4.5%5.9%
6豪州76+18.3%5.1%
7タイ54+6.2%3.6%
8英国48+12.4%3.2%
9シンガポール41+7.8%2.8%
10カナダ37+14.6%2.5%

出典: 観光庁宿泊旅行統計調査 2026年1月分 第1次速報(2026-03-10公表)

市場別の構造変化

順位を3類型に分けると次のように整理できます。

  • 第1類型(東アジア集中): 中国本土・韓国・台湾・香港の合計シェアが60.3%。2025年同月の58.7%から1.6pt上昇
  • 第2類型(欧米豪長距離): 米国・豪州・英国・カナダの合計シェアが18.4%。前年同月17.6%からほぼ横ばい〜微増
  • 第3類型(東南アジア新興): タイ・シンガポール・マレーシア・インドネシアの合計シェアが9.2%。マレーシアは11位以下に後退したものの絶対値は伸長中
韓国市場の構造変化:韓国は2024〜2025年に大阪・福岡を中心とした「短期リピーター市場」として爆発的に伸びましたが、2026年1月は前年同月比-3.2%と初めての減少に転じました。要因は(1)円安一服による割安感の縮小、(2)韓国側の海外渡航コスト上昇、(3)国内代替地の充実と分析されています。短期リピーター戦略の見直しが必要なフェーズです。

Q.1人あたり平均泊数はどう違う?

市場別の戦略設計で重要なのが「1人あたり平均泊数」です。延べ宿泊者数 ÷ 訪日外客数(JNTO推計値)で算出し、宿泊収益単位(RevPAR ベース計算)の前提となります。

国・地域平均泊数主な滞在エリア客室タイプ志向
豪州5.8ニセコ・白馬・東京・京都リゾート/高級ブティック
スペイン5.4東京・京都・広島・大阪シティ/中級ホテル
米国4.7東京・京都・大阪・北海道シティ/上級ホテル/旅館
カナダ4.5東京・京都・大阪・北海道シティ/中級ホテル
英国4.4東京・京都・広島・大阪シティ/中上級
フランス4.3東京・京都・大阪・金沢シティ/旅館志向
シンガポール3.6東京・大阪・北海道シティ/上級ホテル
タイ3.5東京・北海道・大阪シティ/中級
香港3.1東京・大阪・福岡・北海道シティ/中級
台湾2.7東京・大阪・沖縄・北海道シティ/中級/民泊
中国本土2.4東京・大阪・京都シティ/上級/民泊
韓国2.0大阪・福岡・東京ビジネス/中級/民泊

長期滞在市場 vs 短期回転市場

豪州・米国・欧州勢は4〜6泊の長期滞在型で、1旅程で複数都市を巡回するパターンが主流です。一方、韓国・台湾・香港・中国本土は2〜3泊の短期型で、特定都市集中・年複数回リピートが特徴です。

宿泊単価(ADR)・客室収益(RevPAR)の最大化を狙う場合は、長期滞在市場 × 高単価客室短期市場 × 高回転オペレーションの二段階設計が有効です。

「ホテル × 旅館」の組み合わせ戦略:欧米豪長距離市場の4〜6泊滞在では、「3泊ホテル+2泊旅館」のハイブリッド需要が顕在化しています。京都・金沢・箱根・伊豆の旅館がOTA経由で長距離市場の予約を取り込むには、英語・スペイン語・フランス語のメニュー表記、夕食時間の柔軟化(18:00〜21:00)、ベジタリアン対応が3点セットで必要です。

Q.地域別分布はどう変わっているか?

都道府県別の外国人延べ宿泊者数シェアは、ゴールデンルート(東京・大阪・京都)に依然として強く集中しています。一方で、北海道・福岡・沖縄など特定地方都市が伸長しており、「全国分散」というよりは「複数の集中点が並列で形成される」構造に近づいています。

順位都道府県シェア(%)主要市場前年比
1東京都32.1全市場+6.8%
2大阪府14.8韓国・中国・台湾+4.2%
3京都府8.9欧米豪・中国+11.5%
4北海道8.2豪州・台湾・香港・タイ+18.7%
5福岡県5.4韓国・台湾・香港+9.3%
6千葉県4.8全市場(空港+ディズニー)+5.6%
7沖縄県4.1台湾・香港・韓国+13.2%
8愛知県3.6中国・米国・台湾+7.4%
9神奈川県3.2米国・中国(箱根)+8.9%
10長野県2.4豪州・米国(白馬・野沢)+22.4%

出典: 観光庁宿泊旅行統計調査 2026年1月分 第1次速報(都道府県別 外国人延べ宿泊者数)

「3つの分散ハブ」が同時形成される構図

2026年の特徴は、ゴールデンルートに加えて「3つの分散ハブ」が同時に形成されつつある点です。

分散ハブ① 北海道・東北(豪州・台湾・香港・タイ向けスノー & 自然)

ニセコ・白馬・野沢を中心としたスノーリゾート市場が継続成長。豪州市場は1月は東京・羽田を経由してニセコ直行が主流で、平均6泊滞在。長野県の前年比+22.4%は白馬・野沢の豪州勢需要が押し上げています。主市場は豪州・台湾・香港・タイで、前年比+18.7%。

分散ハブ② 九州・沖縄(韓国・台湾・香港向け短期リピート)

福岡・沖縄は東アジア短距離市場の「年複数回リピート」拠点です。韓国市場は2026年1月にFITが復調しつつ、団体は減少傾向。沖縄は香港・台湾のクルーズ寄港復活が下支えしています。主市場は韓国・台湾・香港で、前年比+9.3%(福岡)/+13.2%(沖縄)。

分散ハブ③ 中部広域(米国・中国・台湾向け文化観光)

名古屋・金沢・高山・白川郷を結ぶ中部広域ルート。欧米豪市場の「京都+α」滞在地として認知拡大。北陸新幹線敦賀延伸後の効果が定着しています。主市場は米国・中国・台湾・欧州で、前年比+7〜8%。

Q.タイプ別客室稼働率はどうなっているか?

客室稼働率は宿泊事業者にとって最重要KPIの一つです。観光庁宿泊統計では「宿泊施設タイプ別」「都道府県別」「外国人比率別」の稼働率が公表されており、本章では2026年1月の最新値を整理します。

施設タイプ2026年1月2025年1月前年差備考
シティホテル82.4%78.6%+3.8pt東京・大阪・京都が80%超
ビジネスホテル78.1%74.9%+3.2pt地方主要都市の上昇が顕著
リゾートホテル68.3%62.4%+5.9pt北海道・長野・沖縄が押し上げ
旅館52.1%48.7%+3.4pt京都・箱根・湯布院は70%超
簡易宿所(民泊含む)48.6%45.2%+3.4pt大阪・京都の二極集中
会社・団体の宿泊所32.7%31.5%+1.2pt横ばい

シティホテル82%が示す価格決定力の回復

シティホテル82.4%は2019年1月(80.1%)を上回る水準で、稼働率を上げる余地はほぼ無く、ADR(平均客室単価)による収益最大化フェーズに入ったと言えます。実際、東京都内の大型シティホテルADRは2026年1月時点で平均25,000〜35,000円と前年同月比+12〜18%で推移しています(主要OTA公表値ベース)。

稼働率上限とADR戦略:稼働率が80%を超えた段階で「これ以上の稼働率向上」を狙うのは費用対効果が下がります。代わりに(1)平日ADRの底上げ、(2)上層階・スイートのアップセル、(3)F&B/スパ等のクロスセル、(4)長期滞在割引の最適化で総収益(TRevPAR)を伸ばす局面に入ります。

旅館・簡易宿所の地域差

旅館全国平均52.1%は依然として戦後最低水準近辺ですが、地域差が極端です。京都・箱根・湯布院・由布院・登別・有馬といった「ブランド温泉地」では稼働率70〜85%まで回復している一方、地方の小規模旅館では30〜40%台が多数。後継者不在・施設老朽化と相まって、廃業数が増加傾向にあります。

Q.市場別マーケティング設計はどう組むべきか?

本記事の数値を踏まえると、2026年の宿泊事業者向けマーケティング設計は以下の4セグメントへの再整理が有効です。

セグメントA: 東アジア短期リピート(韓国・台湾・香港)

2〜3泊・年複数回・OTA経由FIT中心。短期回転×高ADR×多言語サイトの3点が必須。客室清掃・チェックイン・チェックアウトのオペレーション速度が収益を左右します。

セグメントB: 中国本土ボリューム(中国本土)

2〜4泊・団体+FIT混在・春節/国慶節集中。中国系OTA(Trip.com/Ctrip/Fliggy)対応、WeChat Pay/Alipay決済、繁体字メニュー(中国語簡体字+繁体字併記)が標準です。

セグメントC: 欧米豪長距離長期(米国・豪州・英国・カナダ・スペイン)

4〜6泊・年1〜2回・周遊型。複数都市の組み合わせと「日本らしさ」の付加価値、英語/スペイン語/フランス語対応、ベジタリアン/ハラル等の食事制約への対応がポイントです。

セグメントD: 東南アジア新興(タイ・シンガポール・マレーシア・インドネシア)

3〜4泊・FIT中心・スノー/桜/紅葉シーズン集中。ハラル/ベジタリアン/イスラム礼拝への配慮、英語接客、デジタル決済(GrabPay等)対応で先行競合との差別化を図ります。

市場別 OTA・予約チャネル戦略

セグメント主要OTA直販強化策キーチャネル
A: 東アジア短期Booking.com / Agoda / Trip.com多言語サイト・LINE公式Naver/Kakao/LINE
B: 中国本土Trip.com / Fliggy / QunarWeChat公式アカウントWeChat / 小紅書
C: 欧米豪長距離Booking.com / Expedia / Hotels.comGoogle Hotel AdsInstagram / TripAdvisor
D: 東南アジアAgoda / Booking.com / Klook多言語サイトInstagram / TikTok
実務層向け・担当と締切

国別需要を反映したOTA配分・言語対応・料金戦略タスク

やること いつまでに 誰が
中国本土+24.6%を取り切るTrip.com/Fliggy在庫配分の再設計、WeChat Pay/Alipay決済導入の見積取得 2026年4月30日 レベニュー/決済
欧米豪長距離(4〜6泊)向け英語/スペイン語/フランス語メニュー整備、ベジタリアン/ハラル対応の可否判断 2026年5月15日 企画/料飲
韓国市場-3.2%を踏まえ、大阪・福岡の短期リピーター向け最低価格帯と平日ADRの見直し 2026年5月10日 レベニュー/マーケ
シティ稼働率82%超を前提としたADR主導の収益設計(上層階アップセル・F&Bクロスセル・長期滞在割引見直し) 2026年5月末 経営企画/レベニュー
豪州+18.3%/長野+22.4%を取り込むスノー/リゾート立地の英語接客研修と次シーズン向け6泊プラン造成 2026年6月末 予約/人事/マーケ

Q.よくある質問

Q1. 国別宿泊データはどこで毎月確認できますか?

観光庁宿泊旅行統計調査は毎月10日頃に第1次速報、翌月末に第2次速報、3か月後に確報が公表されます。e-Stat(政府統計の総合窓口)で過去データも含め全データを取得できます。JNTO訪日外客統計は毎月20日頃公表で、人数ベース・国別の統計はこちらが速報性高く便利です。

Q2. 中国本土が韓国を抜いて首位になった要因は何ですか?

(1)2025年12月のビザ緩和(個人観光ビザ有効期間延長)、(2)春節(2026年2月17日)前の先行需要、(3)韓国市場の円安一服による減速、(4)中国国内の海外渡航需要回復の4要因が複合しています。中国本土の絶対値は2019年1月比でまだ85%程度の回復水準で、今後さらに伸長する可能性が高い局面です。

Q3. 客室稼働率82%超のシティホテルでさらに収益を伸ばす方法は?

稼働率上限に達した段階では、ADR(平均客室単価)による収益最大化が主戦場です。(1)平日料金の底上げ、(2)上層階・スイート・クラブフロアのアップセル、(3)朝食・ディナー・スパのクロスセル、(4)長期滞在割引の見直しの4施策が定石。GOPPAR(1室あたり営業利益)指標でモニタリングします。

Q4. 速報値と確報値で順位が逆転することはありますか?

上位5位以内の順位が確報段階で逆転する例は2018年以降ほぼありません。ただし下位(7〜10位)では1〜2順位の入れ替わりが年1〜2回発生します。シェア比率は確報段階で1〜3pt修正されることがあるため、絶対値は確報まで暫定として扱うのが安全です。詳細は 月別速報vs確報の修正幅 を参照。

Q5. 旅館の地域差を埋める手立ては何ですか?

京都・箱根・湯布院など稼働率70〜85%のブランド温泉地と、地方小規模旅館30〜40%の差はブランド資産・後継者・設備投資余力の違いに起因します。地方旅館は(1)地域DMOとの連携、(2)体験型コンテンツ(農林漁業体験/サイクリング等)、(3)長期滞在向けキッチン付き客室、(4)観光DX補助金の活用で差別化を図るのが現実的です。

Q6. 国別データを使った価格戦略の組み立て方は?

市場別の平均泊数・滞在エリア・購買力を組み合わせて、客室タイプ × 季節 × 市場のマトリクスで価格を設計します。例えば「リゾートホテル×冬期×豪州市場」は5〜6泊長期滞在で価格弾力性が低く、ADRを通常期+30〜50%まで強気で設定可能。逆に「シティホテル×平日×韓国市場」は短期回転・価格弾力性高で、競合比較の最安値帯に置くのが定石です。