東京都「カスタマーハラスメント防止対策推進事業」の企業向け奨励金は、都内中小事業者に40万円を定額支給する制度。マニュアル作成+選択措置1つで申請可能。
改正労推法の措置義務(2026/10/1施行)の準備と奨励金の申請要件が重なるため、義務化対応と助成金取得を同時に達成できる。実質ゼロ円でスタート可能。
2026年度募集は6月予定。GビズIDプライム取得に2〜3週間かかるため、5月中の準備着手が必須。
Q.東京都カスハラ奨励金とは何か
東京都カスタマーハラスメント防止対策推進事業 企業向け奨励金は、都内の中小事業者がカスハラ対策を導入する際に40万円を定額支給する制度です(東京都、2025年度開始)。2026年度も継続予定で、募集は6月に開始される見込みです。
制度の背景
東京都は2025年4月1日にカスタマー・ハラスメント防止条例を全国に先駆けて施行しました。この条例は罰則規定を持ちませんが、都内事業者のカスハラ対策を推進するための施策として奨励金制度を設けています。
2026年10月1日には国の改正労働施策総合推進法でカスハラ対策が義務化されます。東京都の奨励金は、この義務化に先行して対策を講じる事業者を経済的に後押しする位置付けです。詳細はカスハラ義務化対応ガイドを参照してください。
対象事業者の範囲
- 常時雇用する従業員が300人以下の中小企業(中小企業基本法の定義に準拠)
- 個人事業主も対象
- 都内に事業所を有すること(本社が都外でも、都内に事業所があれば対象)
- 宿泊業は「サービス業」に区分され、常時雇用100人以下が中小企業の定義ですが、本奨励金は300人以下まで対象を拡大しています
ポイント.ビジネスホテルチェーンでも、施設単位の従業員数ではなく法人全体の従業員数で判定します。都内に複数施設を持つ中規模チェーンでも300人以下であれば対象です。
Q.申請要件 ― 必須と選択の2層構造
奨励金の申請には必須要件と選択要件の両方を満たす必要があります。
必須
カスハラ対応マニュアルの作成・従業員への周知
自社のカスハラ対応方針を文書化し、全従業員に周知する。厚労省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」やJTB旅連モデルマニュアルをベースに、自社の業務内容に合わせてカスタマイズすることが求められます。
選択(1つ以上)
以下の3つから1つ以上を実施
A. 録音・録画の導入 ― フロント電話やロビーに録音・録画設備を設置し、抑止効果と証拠保全を図る
B. AI活用 ― AIを活用したカスハラ検知、応対支援システムの導入
C. 外部専門人材の活用 ― 社会保険労務士、弁護士、産業カウンセラー等の外部専門家への相談体制構築
宿泊事業者にとっての最適解
ホテル・旅館の場合、必須要件(マニュアル作成)+選択A(録音導入)の組み合わせが最も実務効率が高い方法です。理由は以下の3点です。
- マニュアル作成は改正労推法の措置義務(基本方針の明確化)と直接重なるため、義務化準備そのもの
- フロント電話への録音システム導入は初期投資が比較的小さく(IVR改修や通話録音サービスの月額契約)、40万円でカバーしやすい
- 録音は厚労省指針の「抑止措置」にも該当し、3つの制度要件を同時に充足(奨励金+労推法+指針)
Q.申請の流れ ― GビズIDプライム取得からJグランツ申請まで
申請はすべてJグランツ(電子申請システム)で行います。紙の申請書は受け付けていません。申請にはGビズIDプライムの取得が前提条件です。
1
GビズIDプライムを取得する
デジタル庁が発行する法人・個人事業主向け認証ID。申請から発行まで約2〜3週間かかります。印鑑証明書(法人)または印鑑登録証明書(個人事業主)が必要です。
すでにIT導入補助金やものづくり補助金でGビズIDプライムを取得済みの場合、再取得は不要です。
2
カスハラ対応マニュアルを作成する
厚労省の企業マニュアルやJTB旅連モデルマニュアルをベースに、自社の業務に合わせたマニュアルを作成します。カスハラの定義、対応フロー、相談窓口、記録方法を網羅する必要があります。
3
選択措置を実施または計画する
録音・録画の導入、AI活用、外部専門人材の活用のいずれか1つ以上を実施(または実施計画を策定)します。
4
Jグランツで電子申請する
GビズIDプライムでJグランツにログインし、必要書類(マニュアル、実施計画書、登記簿謄本等)を添付して申請します。2026年度の募集開始は6月予定です。
5
審査・交付決定・実績報告
審査通過後に交付決定通知を受領し、事業実施期間内に措置を完了します。完了後に実績報告書を提出し、40万円が支給されます。
注意.GビズIDプライムの取得がボトルネックです。6月の募集開始に間に合わせるには5月中に申請してください。GビズIDは補助金申請全般の共通基盤であり、今後の人材開発支援助成金やIT導入補助金の申請にも使えます。
Q.何に使えるか ― 対象経費の範囲
奨励金は定額40万円の支給であり、個別の経費精算ではありません。ただし、申請時に実施計画と見積りの提示が求められます。対象となる経費は以下のとおりです。
対象経費の例
- マニュアル作成費: 社労士・コンサルタントへの作成委託費、印刷費
- 研修費: 外部講師による従業員研修、eラーニングシステムの導入費
- 録音システム導入費: 通話録音装置、IVR(自動音声応答)改修、録画カメラの設置工事費
- AI関連費: カスハラ検知AI、チャットボット、応対分析ツールの導入費
- 外部専門人材費: 弁護士・社労士・産業カウンセラーとの顧問契約料
- 周知物作成費: ポスター、啓発チラシ、多言語告知文の制作費
ホテル実務.フロント電話への通話録音サービスの導入は月額数千円〜2万円程度が相場です。録音システム+マニュアル作成の外部委託費(10〜20万円程度)を合わせても40万円の範囲に収まるケースが多く、自己負担ゼロで義務化対応の骨格が整います。
Q.宿泊事業者のタイムライン戦略
奨励金の申請と義務化対応を一体で進めるための月次ロードマップです。
5月
GビズIDプライム申請 + マニュアル骨子の作成開始
経営層・経理 → 人事・総務
6月
奨励金申請(Jグランツ)+ マニュアルv1完成 + 録音サービスの見積取得
経理 → 人事・フロント部門
7月
録音システム導入 + 従業員への周知資料配布
フロント部門・人事
8月
全従業員研修の実施(マニュアル内容+録音運用ルール)
人事・現場マネジャー
9月
実績報告書の作成・提出 + 義務化対応の総点検
経理・人事
10/1
改正労推法施行 ― 義務化対応の運用開始(奨励金で整備した体制をそのまま稼働)
全部門
Q.義務化対応とのシナジー ― 実質ゼロ円スタート
東京都奨励金の要件と改正労推法の措置義務は高い重なりがあります。この重なりを活用すると、義務化対応のコストを奨励金でほぼ全額カバーできます。
| 改正労推法 措置5項目 | 奨励金の対応要件 | 重なり |
| 1. 基本方針の明確化と周知 |
必須: マニュアル作成・周知 |
完全一致 |
| 2. 相談体制の整備 |
選択C: 外部専門人材の活用 |
該当 |
| 3. 事後の迅速かつ適切な対応 |
必須: マニュアルに記載 |
間接的に充足 |
| 4. 抑止措置(未然防止) |
選択A: 録音・録画 |
該当 |
| 5. プライバシー保護 |
必須: マニュアルに記載 |
間接的に充足 |
つまり、奨励金の申請要件を満たす過程で、措置義務5項目のうち少なくとも3項目(方針・抑止・保護)が直接的に充足されます。残り2項目(相談体制・事後対応)もマニュアル作成の過程で設計に組み込むことで、義務化対応の骨格がほぼ完成します。
コスト試算.マニュアル作成の外部委託(10〜20万円)+ 通話録音サービス年額(5〜15万円)= 15〜35万円。40万円の定額支給でカバーでき、差額は研修費や多言語告知物の作成に充てられます。
Q.実務チェックリスト
東京都奨励金 申請から受給までの7ステップ
| やること | いつまでに | 担当 |
| GビズIDプライムの取得申請(印鑑証明書を準備) | 5月中旬 | 経理・総務 |
| 厚労省企業マニュアルとJTB旅連モデルマニュアルを入手・精読 | 5月中 | 人事 |
| 自社版カスハラ対応マニュアルv1を作成(定義・フロー・相談窓口・記録方法) | 6月上旬 | 人事・法務 |
| 選択措置の実施計画を策定(録音サービスの選定・見積り等) | 6月上旬 | フロント・経理 |
| Jグランツで電子申請を提出 | 6月(募集開始後速やかに) | 経理 |
| 措置を実施(録音導入・研修・周知)+ 証拠書類を保管 | 8月末 | 人事・フロント |
| 実績報告書を作成・提出 → 40万円受給 | 9月末 | 経理 |
Q.よくある質問
東京都以外の事業者は利用できないのですか?
東京都奨励金は都内事業者限定です。ただし、カスハラ対策の研修費用は厚労省の
人材開発支援助成金(全国対象)で賄える可能性があります。詳細は
人材開発支援助成金の解説を参照してください。また、大阪府・愛知県など複数の自治体でも独自のカスハラ対策支援制度の検討が進んでおり、各自治体の労働行政窓口に照会することをお勧めします。
1つの法人で複数回申請できますか?
原則として、
1事業者につき1回の申請です(2025年度実績)。都内に複数施設がある場合でも、法人単位で1回の申請となります。ただし、2026年度の詳細要綱は6月の募集開始時に公表されるため、最新情報は
公式サイトで確認してください。
GビズIDプライムはすぐに取得できますか?
オンライン申請から発行まで約2〜3週間かかります。法人の場合は印鑑証明書、個人事業主の場合は印鑑登録証明書が必要です。すでにIT導入補助金やものづくり補助金で取得済みの場合は再取得不要です。GビズIDは今後の補助金申請(Jグランツ対応)に共通で使えるため、未取得の場合は早めに取得しておくことを推奨します。
マニュアルはどの程度の分量が必要ですか?
ページ数の明確な規定はありません。厚労省の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」は約50ページですが、中小事業者向けの簡易版でも要件は満たせます。最低限、(1)カスハラの定義・判定基準、(2)対応フロー(エスカレーション基準)、(3)相談窓口の連絡先、(4)記録・報告の方法、(5)プライバシー保護方針 の5項目を網羅する必要があります。
録音サービスを選ぶ場合、どの程度の設備投資が必要ですか?
クラウド型の通話録音サービスであれば、初期費用0〜5万円、月額3,000〜2万円程度が相場です。フロント電話のIVR冒頭に「品質向上のため録音しています」と録音告知を追加するだけで、抑止効果と法的安全性の両方が確保できます。40万円の奨励金で初年度の費用は十分にカバーできます。
奨励金の申請と改正労推法の義務化は、同時に進められますか?
同時進行が最も効率的です。奨励金の必須要件(マニュアル作成・周知)は、改正労推法の措置義務(基本方針の明確化・周知)と直接重なります。6月に奨励金を申請し、7〜9月で措置を実施すれば、10月1日の義務化施行に間に合わせつつ、40万円を受給できます。
すでにマニュアルを作成済みの場合も申請できますか?
2025年度の要綱では、申請前に作成済みのマニュアルでも、選択措置の新規実施と組み合わせれば申請可能でした。ただし、マニュアルが改正労推法の指針(2026年2月公表)に対応した内容に更新されていることが望ましいです。2026年度の詳細要件は公式サイトで確認してください。