Q.何が起きたか ― 2026年7月15日の技術的助言

2026年7月15日、厚生労働省・国土交通省・観光庁の3課長連名で、全国の都道府県・保健所設置市・特別区に1本の通知が出ました。「住宅宿泊事業法に規定する届出住宅に係るゼロ日規制等について(技術的助言)」。区域を定めて民泊(住宅宿泊事業)の新規実施そのものを禁止する条例、いわゆる「ゼロ日規制」を、自治体の判断で行えると整理した文書です。

通知の性格は地方自治法第245条の4第1号に基づく技術的助言で、それ自体に法的拘束力はなく、自治体が条例を作るときの参考情報です。ただし、国の解釈を公式に示す文書として、今後の条例づくりの土台になります。通知の内容は、今後「住宅宿泊事業法施行要領(ガイドライン)」にも反映される予定です。

背景として通知が挙げるのは、届出住宅の施設数の大幅な増加と、それに伴う住宅地の静穏な居住環境・定住人口の維持への懸念、そして届出住宅の適切な管理への要請の高まりです。

通知 記1(抜粋) 健生衛発0715第1号・国不動第129号・観観産第78号
届出住宅に係るゼロ日規制は、昨今の施行状況を踏まえ、例えば、後述のようなケースにおいては、それぞれの自治体の判断において、合理的に必要と認められる限度において行うことは可能である。
出典: 厚生労働省・国土交通省・観光庁「住宅宿泊事業法に規定する届出住宅に係るゼロ日規制等について(技術的助言)」(2026年7月15日) https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/002011734.pdf

Q.「適切ではない」からの転換 ― ゼロ日規制の位置

住宅宿泊事業法は、年間180日以内という営業日数の上限を法律で定め(第2条第3項)、第18条で自治体が条例により区域を定めて営業期間を制限することを認めてきました。焦点は、この制限をどこまで強くできるか、つまり「実質ゼロ日」まで絞れるかどうかでした。

2017年12月策定の施行要領(ガイドライン)は、年間全期間にわたる一律の禁止、いわゆるゼロ日規制を「適切ではない」としてきました(ガイドライン2-4.(1)②)。今回の通知はこの記載を改め、以後はこの技術的助言を参考にするよう明記しています。自治体の裁量は「180日の範囲で何日まで認めるか」から「そもそもその区域で認めるかどうか」へ広がりました。

しかも通知は、法第18条が例示する区域・期間の制限にとどまらず、チェックイン・チェックアウト時間の制限や定員数の上限設定も、地域の実情に応じた合理的な範囲で条例により行えると整理しました。条例で使える制限の道具立てが一気に増えた通知です。

前提知識.民泊の180日上限の数え方(4月1日正午起算・正午から正午で1日)と定期報告の実務は民泊180日の数え方、旅館業法との制度比較は旅館業法と民泊新法の違いにあります。

Q.どんな区域が対象になりうるか

通知は、今後住宅宿泊事業の実施拡大が見込まれる場合を前提に、2つのケースを例示しています。

通知が例示するケース規制の形の例
住宅地や教育施設等の周辺で、宿泊者の頻繁な往来により静穏な居住環境・教育環境が損なわれるおそれがある場合 区域内で新たな住宅宿泊事業の実施を禁止。または営業可能日を土日祝前日等に限定
住宅の多くが民泊に転用され、定住人口や地域コミュニティの維持が困難になるおそれがある場合 区域内で新たな住宅宿泊事業の実施を禁止

無条件の容認とは違う点も押さえておく必要があります。通知は、規制を合理的な範囲で行うこと、そして目的に応じて簡易宿所等への制限(都市計画など)との整合に留意することを自治体に求めています。住宅地の環境保護を理由に民泊だけを規制し、同じ区域の簡易宿所を放置する形は想定されていません。まちづくりの観点から、都市計画(特別用途地区など)で立地規制を行う道も別に示されています。

つまり、規制が入りやすいのは「閑静な住宅街」「学校周辺」「民泊への転用が進む住宅地」です。都市部の観光地周辺で住宅街に立地する物件を運営している場合、自分の区域がこの類型に当てはまるかを最初に確かめることになります。

Q.既存の届出住宅と物件売買への影響は?

新規の禁止だけなら、いま営業中の物件への影響は限られます。通知はもう一歩踏み込み、既存の届出住宅への制限も条件付きで整理しました。

  • その区域で既に多くの住宅宿泊事業が実施され、現に静穏な居住環境が著しく損なわれているなどの強い必要性が認められること
  • 他に適切な対応策が存在しないこと
  • 一定の猶予期間を設けること

この3つがそろう場合には、既存の届出住宅に対しても、営業の禁止や営業可能日の土日祝前日等への限定を行いうる、というのが通知の整理です。裏を返せば、既存物件への規制はこの高いハードルを越えた場合に限られます。営業中の物件が明日から止まる話ではなく、条例の制定・改正を経て、猶予期間の後に効いてくる変化です。

売買・承継で営業を引き継げない

物件オーナーにとって見逃せないのは届出者の変更の扱いです。新規実施が禁止された区域では、物件の売買や承継などで住宅宿泊事業者(届出者)が変わると、法第3条の届出を新たに行う必要が生じます。新規の届出が受けられない区域なので、結果として、その物件で民泊を続けることはできません。

注意.「民泊営業中」として売りに出ている物件でも、区域が新規禁止になっていれば、買い手は営業を引き継げません。民泊物件の取得・売却の判断では、区域の現行条例に加えて、条例改正の検討状況まで確認する必要があります。

Q.ICT管理の義務付け ― 騒音計・カメラ・データ保存

通知のもう1つの柱は、届出住宅の管理体制です。住宅宿泊事業法第10条等は、事業者と管理業者に対し、周辺住民からの苦情・問合せへ適切かつ迅速に対応する義務を課しています。通知はこの義務を土台に、苦情の原因となる事象を迅速に把握できる体制として、ICTを活用した管理を条例で義務付けうると整理しました。

例示されているのは、騒音計や出入口カメラの設置、モニタリング、一定期間(過去1年分など)のデータ保存です。保存データを自治体が確認することで、事業者の管理状況を検証できる形が想定されています。建物が密集している都市部が念頭に置かれており、対象になるかは各自治体の条例次第です。

事業者側の論点は費用と運用です。義務化された場合、騒音計・カメラの機器代とデータ保存の仕組み、そして異常検知時に駆けつけ対応する体制が要ります。管理業者に委託している物件でも、機器の設置費用やデータの取り扱いをどちらが担うかは契約次第のため、委託契約の中身を再確認する場面が出てきます。

Q.事業者・オーナーが今やることは?

規制の実施は各自治体の条例次第で、2026年7月時点では通知が出た段階です。いま動く目的は2つ。自分の区域の現在地を知ることと、条例が動き出したときに気づける体制を作ることです。

営業中・取得予定の全物件について、所在自治体の現行条例(区域・期間・曜日制限)を確認済み
要確認
所在自治体の条例改正の検討状況(議会・審議会・パブリックコメント)を確認する担当と頻度を決めている
要確認
物件取得・受託の検討フローに「区域の条例動向」「届出者変更で継続不可」の確認項目がある
要確認
騒音計・出入口カメラ・データ保存が義務化された場合の導入費・運用費を見積もっている
任意
ゼロ日規制通知への備え(担当・期限)
やることいつまでに担当
全物件の所在自治体条例を自治体条例一覧で確認し、区域・制限を一覧化今月中経営企画・総務
所在自治体の議会・パブリックコメント情報の確認を月次の定例作業に組み込む今月中総務
物件取得・運営受託の判断基準に「条例動向」「承継時の継続可否」を追加次回案件から経営企画
騒音計・出入口カメラ・データ保存の導入費と運用体制を概算(義務化への備え)四半期内施設・システム
規制強化時の選択肢として、旅館業許可(簡易宿所等)への切替可否(用途地域・構造設備)を確認四半期内経営企画→経営層

Q.よくある質問(FAQ)

Q1. いま営業中の民泊はすぐ営業できなくなる?

すぐには変わりません。実際に規制するには各自治体が条例を制定・改正する必要があります。既存の届出住宅への制限は、区域で現に著しい弊害が生じ、他に適切な対応策がない場合に、猶予期間を設けた上で行いうると通知に明記されています。所在自治体の条例改正の検討動向を確認してください。

Q2. どの自治体でゼロ日規制が始まる?

通知は全国の都道府県・保健所設置市・特別区に宛てたもので、実際に規制するかどうかは各自治体の判断です。2026年7月時点で条例の内容は自治体ごとに異なるため、営業中・営業予定の区域は自治体条例一覧と自治体窓口で確認します。

Q3. 簡易宿所や旅館業法の許可施設にも影響する?

通知の直接の対象は住宅宿泊事業法の届出住宅です。ただし通知は、住宅地の環境保護を目的に民泊を規制する場合、簡易宿所等にも都市計画などで同様の規制を行い整合を確保するよう自治体に求めています。区域によっては旅館業法の施設にも立地規制が及ぶ可能性があります。

Q4. ICT管理の義務付けでは何を求められる?

通知が例示するのは、騒音計や出入口カメラの設置、モニタリング、過去1年分などのデータ保存を条例で義務付ける形です。自治体は保存データの確認により、事業者の管理状況を検証できるようになります。都市部など建物が密集する地域が念頭に置かれています。

Q5. 民泊物件を買って営業を引き継ぐ予定。影響は?

新規実施が禁止された区域では、届出者の変更(売買・承継など)が生じると法第3条の届出を新たに行う必要があるため、その物件で民泊を続けることはできません。取得前に、区域の現行条例と条例改正の検討状況を必ず確認してください。