Q.観光立国推進基本法の中で第10条はどこにあるか?
観光立国推進基本法は平成18年12月20日法律第117号として制定されました。全4章からなり、観光立国の実現に関する政府の責務と基本施策の骨格を定める理念法です。
第10条は第2章「観光立国推進基本計画」の最終条として置かれ、同章の核となる規定です。第8条(観光白書=年次報告)と対をなす構造で、前者が「過去の実績の報告」、後者(第10条)が「将来の計画の策定」を担います。
Q.第10条の全文は?
以下はe-Gov 法令検索で公開されている観光立国推進基本法 第10条の全文です(2026年4月時点の現行)。最新の条文は必ずe-Gov公式ページで確認してください。
第10条政府は、観光立国の実現に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、観光立国の実現に関する基本的な計画(以下「観光立国推進基本計画」という。)を定めなければならない。
2 観光立国推進基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 観光立国の実現に関する施策についての基本的な方針
二 観光立国の実現に関する目標
三 観光立国の実現に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
四 前三号に掲げるもののほか、観光立国の実現に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3 観光立国推進基本計画は、前項第二号に掲げる目標を達成するために必要な財政上の措置その他の措置を明らかにするよう努めなければならない。
4 政府は、観光立国推進基本計画を定めようとするときは、あらかじめ、都道府県の知事の意見を聴かなければならない。
5 政府は、観光立国推進基本計画を定めたときは、遅滞なく、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない。
6 政府は、観光立国推進基本計画を定めた後、諸情勢の変化を勘案し、及び観光立国の実現に関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね五年ごとに、観光立国推進基本計画に検討を加え、必要に応じ、これを変更するものとする。
7 第四項及び第五項の規定は、観光立国推進基本計画の変更について準用する。
Q.第1項・第2項 ― 策定義務と記載事項とは?
第1項 策定義務
「定めなければならない」は法律用語としての義務規定です。「定めるよう努めなければならない」(努力義務)でも「定めることができる」(裁量)でもなく、政府が計画を策定する法的義務を負うことを明示します。
主語は「政府」で、観光庁ではありません。このため計画の成立には閣議決定が必要で、単独の省庁判断では策定できない仕組みになっています。
第2項 記載事項(4項目)
第2項は計画に記載すべき事項を列挙します。実際の第1次〜第5次計画はいずれもこの4項目に沿って構成されています。
| 号 | 記載事項 | 計画上の対応 |
|---|---|---|
| 一 | 基本的な方針 | 「はじめに」「基本的な考え方」等の冒頭部分 |
| 二 | 目標 | KPI(訪日者数・消費額・宿泊者数等)。第5次は2030年目標 |
| 三 | 政府が講ずべき施策 | 5本柱の下位にぶら下がる具体施策。補助金・規制・税制含む |
| 四 | その他必要な事項 | 推進体制、評価・検証の仕組み、地方公共団体との連携等 |
第2号の「目標」が、計画の実効性を担保する中核要素です。ここに明記された数値は、下位の補助金・予算要求・規制緩和の根拠として用いられます。
Q.第3〜5項 ― 財政措置と手続要件とは?
第3項 財政上の措置の明示(努力義務)
第3項は、目標達成に必要な「財政上の措置その他の措置を明らかにするよう努めなければならない」と規定します。文末が「努めなければならない」となっているため努力義務で、具体的な予算額の明示までは強制されません。実際の計画本文では、概ねの方向性(予算確保の方針、重点分野)が示される運用となっています。
第4項 都道府県知事の意見聴取(義務)
第4項は「あらかじめ、都道府県の知事の意見を聴かなければならない」と規定します。計画策定プロセスで都道府県知事会議・アンケート・個別ヒアリング等の形で意見が集約されます。これが地方自治との連動を担保する法的手続です。
第5項 国会報告と公表(義務)
第5項は「遅滞なく、これを国会に報告するとともに、公表しなければならない」と規定します。閣議決定と国会報告は別手続で、計画は閣議決定で成立した後、国会に報告され、一般にも公表されます。
Q.第6〜7項 ― 5年サイクルと変更手続とは?
第6項 おおむね5年ごとの検討
第6項は「諸情勢の変化を勘案し、及び観光立国の実現に関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね五年ごとに、観光立国推進基本計画に検討を加え、必要に応じ、これを変更するものとする」と規定します。
これが5年サイクルの法的根拠です。ただし「おおむね五年ごと」であり厳密な5年ではありません。実際の第1次〜第5次計画も、5年より短い/長いケースが混在します。
第7項 変更時の手続準用
第7項は「第四項及び第五項の規定は、観光立国推進基本計画の変更について準用する」と規定します。計画を変更する場合も、都道府県知事の意見聴取(第4項)・国会報告と公表(第5項)の手続を踏む必要があります。
Q.第1次〜第5次計画の実施履歴は?
法施行(2007年1月1日)以降、第10条に基づいて5回の基本計画が閣議決定されています。それぞれの閣議決定日と対象期間は以下の通りです。
| 計画 | 閣議決定日 | 対象期間 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 第1次 | 2007年6月29日 | 2007〜2011年度 | 法施行後最初の計画 |
| 第2次 | 2012年3月30日 | 2012〜2016年度 | インバウンド本格化期 |
| 第3次 | 2017年3月28日 | 2017〜2020年度 | 訪日4,000万人目標の初提示 |
| 第4次 | 2023年3月31日 | 2023〜2025年度 | コロナ後の回復期。期間3年 |
| 第5次 | 2026年3月27日 | 2026〜2030年度(見込み) | 2030年目標の継続・更新 |
第3次と第4次の間隔が長かった理由
第3次(2017-2020年度)の対象期間終了後、第4次計画の閣議決定は2023年3月31日まで約2年ずれました。これは新型コロナウイルスによる観光需要の急変が原因で、当時の政府は感染症対応を優先し、次期計画の策定を延期しました。第10条第6項の「おおむね五年ごと」の柔軟性があったために運用できた対応といえます。
Q.観光白書(第8条)との違いは?
観光立国推進基本法 第2章内には、第10条(基本計画)の他に第8条(観光白書=年次報告)があります。両者は性格が明確に異なります。
| 観点 | 第8条 観光白書 | 第10条 基本計画 |
|---|---|---|
| 性格 | 年次報告書(過去の振り返り) | 戦略文書(将来の方針) |
| 頻度 | 毎年(通例6月閣議決定) | おおむね5年ごと |
| 対象期間 | 前年度の観光動向・施策実績 | 今後3〜5年の方針と目標 |
| 法的性格 | 毎年の報告義務 | 策定義務 + 検討義務(5年ごと) |
| 実務上の活用 | 市場データ・施策実績の参照 | 補助金・規制の上位方針 |
事業者が中長期計画を立てるときは基本計画(第10条)を、市場分析・競合分析・過去トレンドを追うときは観光白書(第8条)を参照するのが実務的な使い分けです。
Q.第10条の理解は宿泊事業者にどう役立つか?
| 領域 | 活用可能性 | 具体的な内容 |
|---|---|---|
| 中長期計画 | ★★★ | 基本計画は法的根拠のある政府方針。自社の3〜5年計画の前提として組み込み可能 |
| 補助金申請 | ★★★ | 補助金は基本計画の「政府が講ずべき施策」(第2項第3号)に根拠。申請書で計画への適合を示すと採択可能性向上 |
| 規制動向の予測 | ★★ | 規制緩和・条例改正の方向は基本計画に織り込まれることが多く、早期の兆候を読める |
| 地方自治体との連携 | ★★ | 第4項の知事意見聴取により地方の意向が計画に反映。自治体の観光振興計画と連動する |
| 対外説明 | ★★ | 投資家・取引先・従業員への説明で「政府方針と整合する事業戦略」として位置付けられる |
| やること | 期限 | 担当 | |
|---|---|---|---|
| □ | 第5次観光立国推進基本計画(2026-2030)の原文をe-Gov・観光庁公式からダウンロードし、経営企画で保管 | 2026年Q2中 | 経営企画 / 総務 |
| □ | 計画の「政府が講ずべき施策」(第2項第3号)から自社関連の補助金・規制項目を抽出 | 2026年Q2 | 経営企画 / 現場責任者 |
| □ | 補助金申請書・稟議書で計画への適合(政府方針との整合)を明示できる文面を用意 | 公募前 | 経営企画 / 申請担当 |
| □ | 所属する都道府県の観光振興計画と国の基本計画の連動箇所を確認(第4項 知事意見経由) | 2026年Q3 | 経営企画 / 広報 |
| □ | 業界団体(全旅連・日本旅館協会・日本ホテル協会等)経由の意見集約ルートを把握 | 随時 | 広報 / 経営企画 |
| □ | 次期(第6次)計画策定サイクルに備え、自社KPIと政府目標の対応表を作成 | 2029年度末 | 経営企画 / 経理 |
Q.よくある質問
Q1. 観光立国推進基本計画は国会で議決されますか?
議決の対象ではありません。第10条第5項の規定により、計画は閣議決定で成立した後、国会に報告されるだけで、国会の可決・承認は要件ではありません。行政府(政府)が策定し、立法府(国会)に報告するという、行政の計画文書としての位置付けです。
Q2. 計画は何年有効ですか?
法律上、明示的な有効期限はありません。第10条第6項で「おおむね五年ごと」に検討が要請されますが、前計画が自動失効する規定はなく、次期計画の閣議決定をもって前計画が更新される運用です。実務上は、計画本文に「対象期間」が明記されるのが通例です。
Q3. 計画の内容に事業者が意見を出す機会はありますか?
第10条で明示されるのは都道府県知事の意見聴取(第4項)のみですが、実際の策定プロセスでは、観光庁の審議会・パブリックコメント・業界団体ヒアリング等を通じて民間の意見が集約されます。個別事業者の意見を反映させるには、全旅連・日本旅館協会・日本ホテル協会等の業界団体を経由するのが実効的です。
Q4. 計画に書かれた施策はすべて実行されますか?
計画は方針・目標・施策の方向性を示す文書で、各施策の実施は毎年度の予算編成・法令改正・行政通達で個別に決定されます。そのため、計画記載事項がそのまま全部実行されるとは限りません。実施状況は観光白書(第8条)で毎年振り返られます。
Q5. 第10条の条文は過去に改正されましたか?
観光立国推進基本法本体の改正履歴はe-Gov法令検索で確認できます。第10条の実質的な内容に関する大きな改正はこれまでなく、計画策定の枠組みは法施行時の骨格が維持されています。最新の条文は必ずe-Gov公式ページで確認してください。
