「パスポートのコピー、取っていいんですか?」

外国人ゲストがフロントに到着したとき、パスポートをお預かりして情報を記録する。多くのホテル・旅館で行われている日常的な手続きですが、「どの情報をどこまで記録すべきか」「コピーを取って保管してよいのか」について、正確に把握しているスタッフは意外と少ないものです。

特にインバウンド需要の回復に伴い、外国人宿泊者が増加している施設では、パスポート確認の手順を改めて整理しておく必要があります。法的義務を果たしつつ、ゲストに不快感を与えない対応を実現するために、この記事で確認していきましょう。

旅館業法が求めるパスポート確認義務

旅館業法第6条第2項では、日本国内に住所を持たない外国人が宿泊する場合、宿泊者名簿に以下の情報を記載することを義務付けています。

  1. 国籍
  2. 旅券番号(パスポートナンバー)

加えて、出入国管理及び難民認定法(入管法)に基づく外国人宿泊者名簿の規定により、これらの情報はパスポートの「呈示」を受けて記録する必要があります。つまり、口頭での自己申告だけでは不十分で、実物を確認したうえで記載することが求められます。

旅館業法施行規則第4条の2第2項:「旅館業の営業者は、外国人の宿泊者については、その国籍及び旅券番号を宿泊者名簿に記載しなければならない。」

記録すべき情報の範囲

法律で求められている記録項目は、あくまで「国籍」と「旅券番号」の2つです。以下のような情報は、法的には記録義務がありません。

ただし、施設の内部規定や自治体の指導により、これらの追加情報の記録を求められるケースもあります。管轄の保健所や自治体の要領を確認し、自施設で対応すべき範囲を把握しておきましょう。

パスポートのコピー保管 ── 法的に必要か

結論から言うと、パスポートのコピーを取ることは旅館業法上の義務ではありません。法律が求めているのは、宿泊者名簿への「国籍」と「旅券番号」の記載です。

しかし、多くの施設がコピーを取っている背景には、以下の実務上の理由があります。

コピー保管には個人情報保護法上の注意が必要です。
パスポートのコピーには顔写真・生年月日・国籍など、高度な個人情報が含まれます。保管する場合は、個人情報保護法に基づく「利用目的の特定」「安全管理措置」が求められます。また、外国人ゲストに対して、コピーを取る目的と保管期間を説明できるようにしておきましょう。

コピーを取る場合の管理ポイント

在留カードとパスポートの違い

外国人宿泊者には、「パスポート」を持つ短期滞在者と、「在留カード」を持つ中長期在留者がいます。この2つを混同しないことが重要です。

短期滞在者(観光客など)

在留期間が90日以下で、在留カードは発行されません。パスポートの呈示を受け、国籍と旅券番号を記録する必要があります。

中長期在留者(留学生・就労者など)

在留カードが発行されている外国人です。国内に住所を有するため、旅館業法上は「日本国内に住所を有する者」として扱われます。パスポートではなく、在留カードで本人確認を行い、名簿には通常の宿泊者と同じ項目(氏名・住所・職業)を記載します。

特別永住者

特別永住者証明書を保有する方です。日本国内に住所を有するため、パスポートの確認義務はありません。通常の宿泊者名簿の記載項目で対応します。

判断に迷ったときは。
在留カードの有無が分からない場合は、「日本国内にご住所はありますか?」と確認してください。国内住所がある場合は在留カードで確認、ない場合はパスポートで確認、というフローが基本です。

フロント対応の実務フロー

外国人ゲストのチェックイン時に、スムーズかつ法令遵守で対応するためのフローを整理します。

Step 1:国内住所の有無を確認

「Do you have a residential address in Japan?」と確認。住所がある場合は在留カード確認へ、ない場合はパスポート確認へ進みます。

Step 2:パスポートまたは在留カードの呈示を依頼

「May I see your passport, please?」と丁寧に依頼します。呈示されたら、国籍と旅券番号を名簿に記録します。

Step 3:宿泊者名簿への記載

国籍(Nationality)と旅券番号(Passport Number)を名簿に記入。転記ミスを防ぐため、記入後にパスポートと照合確認を行います。

Step 4:パスポートの返却

記録が終わったら速やかに返却します。パスポートを長時間預かることは避けてください。法的にもゲスト体験上も望ましくありません。

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よくある質問と回答

Q:パスポートを忘れたと言われた場合は?

旅館業法では宿泊拒否の要件が限定されていますが、2023年改正により「正当な理由」がある場合の宿泊拒否が明確化されました。パスポート不携帯自体は直ちに宿泊拒否の理由にはなりませんが、身元確認ができない状況では慎重な対応が必要です。他の身分証明書(運転免許証の国際版など)で確認できないか検討し、対応に困った場合は管理者に判断を仰いでください。

Q:グループの場合、全員のパスポートを確認すべきか?

法律上は、宿泊者全員の情報を記録する義務があります。代表者だけでなく、同行する全員について国籍と旅券番号を確認・記載してください。大人数のグループの場合は、事前にパスポート情報をリスト化してもらうよう依頼すると、チェックイン時の負担を軽減できます。

Q:OTA経由の予約で事前にパスポート情報を取得済みの場合は?

OTAのシステム上でパスポート情報が入力済みであっても、チェックイン時に実物での確認は行ってください。旅館業法は「呈示」を求めており、事前入力だけでは法的要件を満たしません。ただし、照合作業の時間は短縮できるため、事前情報と実物を突合する形で効率的に対応できます。

コンプライアンス確認チェックリスト

正確な対応がゲストの安心につながる

パスポート確認は、法令遵守の観点だけでなく、ゲストの安全を守るための手続きでもあります。適切に行えば、外国人ゲストにとっても「この施設はしっかり管理されている」という安心感につながります。

一方で、過剰な情報収集や長時間のパスポート預かりは、ゲストの不信感を招きかねません。法律で求められている範囲を正確に理解し、必要十分な対応を心がけることが、フロント業務の質を高める第一歩です。