「I have a shellfish allergy」。チェックインの途中でそう言われた。今夜の懐石にえびの真薯が入っていたはず。厨房に確認したいが、後ろにまだ3組並んでいる。

旅館や温泉宿で外国人ゲストの対応に困る場面は、大きく4つに分かれます。言葉が通じない、食事制限を当日知った、温泉や館内でのマナー摩擦、クレームやトラブル。以下では場面ごとに「最初の30秒で何をするか」「やりがちな失敗」「そのまま使えるフレーズ」を並べます。

設備面の整備(多言語掲示・キャッシュレス・Wi-Fi等)は温泉旅館のインバウンド対応7項目にまとめてあります。この記事は、設備を整えた後でも残る「目の前のゲストにどう動くか」に絞ります。

4,268万
2025年の訪日外国人旅行者数
15.3%
旅館宿泊者に占める外国人比率
52%
温泉旅館に「興味あるが不安」と回答した訪日客の割合

出典: JNTO「訪日外客統計」(2025年)、観光庁「宿泊旅行統計調査」(2025年)、JTB総合研究所「インバウンド宿泊行動調査」(2024年)

場面1|言葉が通じない

ゲストが英語で話しかけてきたが、聞き取れたのは単語の断片だけ。あるいは、こちらの説明にゲストが首をかしげている。完璧な英会話は要りません。やることは3つです。

最初の30秒

  1. 敬語を外して短く言い直す。「恐れ入りますが、大浴場のご利用は22時までとなっております」→「おふろ、よる10時まで」。一文を短く、数字は指で示す。漢字圏(中国・台湾・韓国)のゲストなら紙に「大浴場 〜22:00」と書くだけで通じることが多い。
  2. 翻訳アプリの音声モードを使う。Google翻訳の会話モードで、短い文を交互に話す。長い説明を一度に入れると誤訳する。「おふろ 10時まで」くらいに区切ってから翻訳にかける。フロントにスマホかタブレットを1台、充電しながら常備しておく。
  3. 指差しカードに切り替える。温泉の入り方、食事時間、Wi-Fiパスワード、チェックアウト時刻。毎回聞かれる案内はA5のラミネートカードにまとめておく。通信が不安定な山間部の宿では、アプリより確実。

やりがちな失敗

そのまま使えるフレーズ
日本語: 「おふろ、よる10時まで。ごはん、6時から」(数字を見せながら)
英語: "Bath until 10 PM. Dinner from 6 PM."(時計を指す)
万能の一言: "Let me check for you."(確認します)。何を聞かれても、まずこれを言えば10秒稼げる。

頻出フレーズのカード化と具体的な文例はチェックイン英語フレーズ集にまとめています。

場面2|食事制限・アレルギーを当日知った

予約時に申告がなかった。チェックイン中か、食事直前に「shellfish allergy」「I'm vegan」「halal only」と言われた。懐石は品数が多く、出汁や調味料にアレルゲンが隠れている。この場面では安請け合いが最も危険です。

「大丈夫です、対応します」と即答しない。
かつお出汁(魚介)、醤油(小麦)、味噌(大豆)は懐石のほぼ全品に入っている。微量混入のリスクを厨房が判断するまで、フロントが安全を保証してはいけない。

最初の30秒

  1. 「何を」「どの程度」を確認する。宗教的な制限(豚肉・アルコール不可)か、医学的なアレルギー(微量で発症するか)か、嗜好(ベジタリアン)か。重症度によって厨房の動き方がまったく違う。英語なら "Is it an allergy or a preference?" で切り分けられる。
  2. 厨房に内線する。今夜のメニューに該当食材が入っているか、抜ける品・替えられる品はどれか。フロントだけで判断しない。
  3. できる線とできない線を伝える。「3品は差し替えられます。ただ出汁にかつおを使っているため、完全な除去はできません」。曖昧にぼかすより、正直に境界を示す。
  4. 対応しきれない場合は近隣の店を案内する。ハラール対応やヴィーガン専門店のリストを事前に作っておく。「申し訳ありません」で終わらせず、代わりの選択肢を出す。

やりがちな失敗

そのまま使えるフレーズ
確認: "Do you have any food allergies or dietary restrictions?" / 「食べられないものはありますか」
厨房確認後: "We can remove shrimp from two dishes. The broth uses bonito — is that OK for you?" / 「えびは2品から外せます。出汁にかつおが入りますが、大丈夫ですか」
対応不可: "I'm sorry, we cannot guarantee allergen-free preparation tonight. Here is a list of nearby restaurants that can." / 「今夜の完全対応は難しいです。対応できる近くのお店を案内します」

予約時に聞いておけば当日の混乱は大幅に減ります。予約フォームや確認メールへの組み込み方は「アレルギーはありますか?」を正確に聞く多言語フレーズに整理しています。

場面3|温泉のマナー摩擦

タオルを湯船に入れている。かけ湯をせずにそのまま浸かった。脱衣所でスマホのカメラを構えている。大半は悪意ではなく、単に知らないだけです。注意の仕方で、口コミの内容が変わります。

最初の30秒

  1. 否定語を使わず、理由を先に言う。「ダメです」「No」ではなく「To keep the water clean for everyone」。理由を添えると、ルールではなく配慮として伝わる。日本語なら「きれいなお湯をみんなで使うために」。
  2. やってほしいことを動作で見せる。「タオルを出してください」と言うより、自分がタオルを棚に置く動作をする。言葉よりも速くて正確。
  3. 代替を出す。裸での入浴に抵抗があるゲストには貸切風呂や部屋風呂を案内する。タトゥーについては自施設の方針(カバーシール対応/全面許可/貸切のみ)を、チェックイン時に一言伝えておく。

やりがちな失敗

そのまま使えるフレーズ
かけ湯: "Please rinse your body here before entering the bath."(シャワーを指す)
タオル: "Could you leave your towel outside the water? It keeps the bath clean for everyone."(棚を指す)
撮影: "Sorry, no photos in the changing area — for everyone's privacy."(カメラに×のジェスチャー)
タトゥー(貸切案内): "We have a private bath available. Would you like to use that instead?"

脱衣所や浴場入口に英語・中国語・韓国語のイラスト付きマナーカードを置くと、口頭での注意自体が減ります。掲示物の考え方と作り方は温泉旅館のインバウンド対応7項目を参照してください。

場面4|クレーム・トラブルの初動

「隣の部屋がうるさい」「予約と違う部屋だ」「エアコンが動かない」。外国人ゲストのクレームは、言語の壁で状況確認に時間がかかり、対応が遅れるほど不満が膨らみます。

最初の30秒

  1. "I understand." を先に言う。解決策がまだなくても、聞いている姿勢を見せる。日本語なら「わかりました、確認します」。解決より先に共感。
  2. 事実を3点だけ押さえる。いつ・何が・どの部屋で。感情的な訴えに引っ張られず、事実を確認する。英語なら "When did it start?" "Which room?" "What happened?" の3問で足りる。
  3. 選択肢を出す。「部屋を替えますか」「修理を手配します」「返金で対応します」。夜勤のスタッフが判断に迷わないよう、対応権限の上限を事前に決めておく(例: 1泊分の割引まではフロント判断可、それ以上は支配人へ)。
  4. 記録を残す。日時・対応者・内容・ゲストの反応。OTAレビューで事実と異なる投稿があった場合に、反論の根拠になる。

やりがちな失敗

そのまま使えるフレーズ
第一声: "I understand. Let me look into this right away." / 「わかりました。すぐ確認します」
途中経過: "I'm still working on it. I'll have an update in 10 minutes." / 「確認中です。10分以内にお伝えします」
選択肢: "I can offer you a different room, or a discount on tonight's stay. Which would you prefer?" / 「お部屋の変更か、今夜分の割引が可能です。どちらがよろしいですか」

深夜帯に起きやすいパターンと対応の型は深夜チェックインの外国人ゲスト対応にまとめています。

4場面に共通する一手──事前に届ける

ここまでの4場面には、ひとつ共通点があります。事前にゲストへ情報が届いていれば、当日の対応負荷が大きく下がる。具体的に効果が出やすいのは次の3つです。

この多言語FAQは、海外からのAI検索にも効きます。ChatGPTやGeminiで宿を調べるゲストが増えているため、英語・中国語・韓国語の基本情報を構造化データ(FAQPage JSON-LD)付きで掲載しておくと、AI検索の回答に施設情報が引用されやすくなります。接客のために作った素材が、集客にもそのまま使えます。

多言語サイトの作り方はホテル公式サイトの多言語化、AI検索で見つけてもらうための整備はインバウンド集客とAI検索で扱っています。

御施設がAI検索で海外ゲストにどう案内されているか、サンプルで確認できます

AI検索での推薦状況を無料でチェック

よく聞かれる質問──3言語で先に出しておく

フロントで繰り返し聞かれる質問を、英語・中国語・韓国語にしたものです。公式サイトのFAQページに掲載し、FAQPage構造化データを付ければAI検索にも拾われやすくなります。自施設の運用に合わせて書き換えてください。

ENGLISH

How do I tell the ryokan about a food allergy?

Tell the front desk at check-in, or note it in the reservation form in advance. Be specific about the ingredient and how severe the reaction is. Kaiseki meals use dashi (bonito or shrimp), soy sauce (wheat) and miso, so even small traces matter. The earlier you inform us, the more the kitchen can substitute.

中文

进入温泉前需要做什么?

进入温泉前,请先在淋浴区洗净身体,并将毛巾放在浴池外。温泉是大家共用的,保持清洁是基本礼仪。如果对裸浴感到顾虑,可以向前台询问是否有包租浴池或客房温泉。

한국어

체크인은 몇 시부터 가능한가요?

체크인 시간은 료칸마다 다르지만 보통 15시부터입니다. 도착이 늦어지거나 이른 체크인을 원하시면 미리 료칸에 연락해 주세요. 늦은 시간 도착 시 저녁 식사 시간과 겹치지 않도록 사전 안내를 받는 것이 좋습니다.