「あれ、この件って前のシフトで解決したんじゃなかったっけ?」

夜勤のスタッフが朝のスタッフに引き継ぎをする。「305号室のお客様、昨夜エアコンの調子が悪いと連絡がありました。設備会社に連絡済みで、今日の午前中に来る予定です」。朝のスタッフはノートに目を通し、うなずく。しかし午前10時、305号室のゲストから再び電話が入る。「まだ修理の人が来ないのですが」。朝のスタッフは、設備会社の連絡先も到着予定時刻もわからない。夜勤のノートには「連絡済み」としか書かれていない。

フロントの引き継ぎノートは、サービスの継続性を支える生命線です。しかし、「何を書き、何を口頭で伝え、何をPMSに記録するか」のルールが曖昧なまま運用されている施設は少なくありません。この記事では、引き継ぎの質を安定させるための考え方と実務を整理します。

引き継ぎ情報の3層構造

引き継ぎで伝えるべき情報は、その性質によって3つに分類できます。

層1:ノートに書くべきこと(事実と数字)

部屋番号、ゲスト名、発生した事象、対応内容、連絡先、期限── 事実と数字に関する情報は、必ずノートに記載します。口頭だけでは忘れる可能性があり、シフトが2回交代すると完全に消えます。「誰が読んでも同じ理解になる」記述が理想です。

層2:口頭で補足すべきこと(温度感と背景)

「305号室のお客様、かなりお怒りでした」「次にまた連絡があったら、すぐにマネージャーに報告してください」── ゲストの感情の温度感、対応の優先度、判断の背景は、文字だけでは伝わりにくい情報です。ノートに書いた事実の「行間」を、口頭で補足します。

層3:PMSに記録すべきこと(ゲスト履歴として残る情報)

アレルギー情報、過去のクレーム履歴、VIPステータス、清掃に関する特別なリクエスト── 今日のシフトだけでなく、次回の宿泊時にも参照すべき情報はPMSのゲストメモに記録します。引き継ぎノートは「今日限り」、PMSは「永続的」という使い分けです。

10〜15分
引き継ぎの所要時間
3回
1日のシフト交代回数
3層
情報の記録先

引き継ぎノートの「書くべき5項目」

引き継ぎノートに記載する項目を定型化することで、書き漏れと読み落としを防ぎます。以下の5項目をテンプレートとして使ってください。

引き継ぎノート テンプレート

【日付・シフト】2026/04/10 日勤→夜勤

1. 未完了の対応
   - 305号室:エアコン修理。設備会社○○に連絡済み。
     到着予定:4/11 10:00。担当者名:田中。
     電話:03-XXXX-XXXX

2. 本日の特記事項
   - 502号室:連泊。清掃不要(タオル交換のみ)
   - 801号室:VIPゲスト。GM名刺を渡してある

3. 予約関連
   - 22:00以降のチェックイン予定:3件
   - 団体(○○会社)10名 17:00到着予定

4. 設備・施設
   - 3F自販機故障中。メーカー手配済み(4/12修理予定)

5. その他
   - 本日クレジットカード端末の動作が不安定。
     再起動で復旧したが、再発時はマネージャー山田に連絡

口頭引き継ぎの「3分ルール」

口頭での引き継ぎは、ノートに書いた内容の「補足」に限定します。ノートを読み上げるのではなく、「特に注意すべき点」を3分以内で伝えます。

口頭で伝えるのは「書けないこと」だけ。事実はノート、温度感は口頭、履歴はPMS。この原則を徹底すると、引き継ぎが10分以内で完了します。

口頭で伝えるべきこと

口頭で伝えてはいけないこと

フロント業務、もっとシンプルにできます

情報の引き継ぎも、仕組みで確実にできます

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引き継ぎの「品質」を安定させる仕組み

仕組み1:テンプレートの固定

ノートのフォーマットを固定し、「未完了の対応」「特記事項」「予約関連」「設備」「その他」の5項目を毎回記載するルールにします。書く人によって項目が変わる状態を防ぎます。

仕組み2:引き継ぎ時間の確保

シフト交代の前後10分を「引き継ぎ専用時間」として確保します。この時間にゲスト対応が入った場合は、もう1名が対応を引き受けるルールにします。引き継ぎの時間が確保されない施設では、情報の欠落が常態化します。

仕組み3:PMSのメモ機能の活用

引き継ぎノートに書く内容のうち、ゲスト固有の情報(アレルギー、VIPステータス、過去のクレーム等)はPMSのゲストメモに記録します。引き継ぎノートは「今日の出来事」、PMSは「このゲストについて知っておくべきこと」という役割分担です。

デジタル化すれば解決するわけではありません。
引き継ぎノートをデジタル(社内チャット、共有ドキュメント等)に移行する施設もありますが、書くべき内容が整理されていなければ、紙でもデジタルでも情報の欠落は起きます。まずは「何を書くか」のルールを整備し、そのうえでデジタル化を検討してください。

引き継ぎの質が、サービスの質を決める

ゲストは、シフト交代を意識していません。朝のスタッフに伝えたことは、夜のスタッフにも当然伝わっていると思っています。「さっき言ったのに」「昨日お願いしたのに」── この一言が出た瞬間、そのゲストの信頼は損なわれます。

引き継ぎは地味な業務ですが、サービスの継続性を支える基盤です。ノートに書くべき5項目を定型化し、口頭は温度感の補足に限定し、ゲスト履歴はPMSに記録する。この3層の使い分けを定着させることが、引き継ぎの質を安定させるもっとも確実な方法です。