「心洗われる湯のぬくもり」「季節が薫る懐石」──温泉旅館のHPに並ぶ情緒的なコピーは、旅行者の想像を掻き立てます。宿の世界観を伝える手段として、長年これが正解でした。
しかしAI検索の時代には、この正解が裏目に出ます。ChatGPTやGeminiに「○○温泉 源泉掛け流し おすすめ」と聞いたとき、情緒的コピーしかないHPの旅館は候補に出ません。AIは詩を解釈しない。「源泉掛け流し」「露天風呂付き客室」「部屋食」といった事実情報を探し、見つからなければスキップします。
温泉旅館3件のHPを分析したところ、いずれも情緒コピーが大半で、AIが拾える事実記述が不足していました。詩的な表現を削る必要はありません。事実を足すだけで変わります。
- AIは情緒的な表現から泉質や設備を推論しない──「源泉掛け流し」と直接書かれていなければ、その施設を源泉掛け流しとして推薦しない
- HPが詩的であればあるほど、AIが拾える事実情報が薄くなり、推薦候補から外れやすい
- 詩的コピーは削らなくてよい──事実情報を併記すれば対応できる
- 泉質・設備・食事・アクセスの4領域で事実を追記するのが最短の修正
- 構造化データ(schema.org)を足せば、HPの見た目を変えずに機械向けの情報を渡せる
AIが「読めない」HPの構造
ある温泉旅館のトップページには「千年の湯に身を委ねる至福のひととき」と書かれていた。人間なら「歴史ある温泉なんだな」と想像する。しかしAIはこの文から泉質も温度も読み取れない。「源泉掛け流しですか」と聞かれても、判断する材料がない。
温泉旅館3件のHPをChatGPT・Gemini・Copilot・Claudeに読ませたところ、共通して返ってきたのは「泉質不明」「温泉の種類(掛け流しか循環か)不明」「食事内容の具体性不足」という指摘だった。
文章量は十分にあった。トップページだけで1,000字を超える旅館もある。問題は、その文章がほぼすべて情緒的表現で、事実がどこにも書かれていなかったこと。「四季折々の味覚でおもてなし」とあるが、料理の種類も品数も食事場所も出てこない。「温泉の恵みに包まれる」とあるが、泉質名がない。
AIにとって、このHPは「温泉旅館であること」以上の情報がない白紙と同じだった。
何が書かれていれば拾われるか
AIが施設を推薦するとき、根拠にする情報には明確なパターンがある。
- 泉質: ナトリウム-塩化物泉、単純温泉など具体的な泉質名
- 温泉の種類: 源泉掛け流しか加温循環か
- 客室タイプ: 和室10畳、露天風呂付き客室の有無
- 食事の形態: 夕食は会席料理か、部屋食か食事処か、品数
- アクセス: 最寄駅から送迎バスで何分か
これらの事実がHTMLのテキストとして存在していれば、AIは拾う。写真のキャプションやPDFの中に埋まっている情報は拾われにくい。
比較するとわかりやすい。
BEFORE
「四季折々の味覚でおもてなし」
AFTER
「地元の旬食材を使った会席料理(夕食15品)、夕食は個室食事処で提供」
前者からAIが得られる情報はゼロ。後者なら「会席料理」「15品」「個室食事処」「地元食材」を拾える。
BEFORE
「湯のまちの風情に浸る」
AFTER
「泉質: ナトリウム-塩化物泉、源泉掛け流し、泉温42度」
旅行者がAIに「源泉掛け流し おすすめ」と聞いたとき、後者の記述がある施設だけが候補に上がる。
詩を残して事実を足す
HPの世界観を壊す必要はない。既存の情緒的コピーはそのまま残し、その直後に事実を追記する。これだけでAIに見つけてもらえるHPに変わる。
トップページの「千年の湯に身を委ねる至福のひととき」の下に、「泉質: ナトリウム-塩化物泉/源泉掛け流し/泉温42度」を1行足す。人間の読者にとっても有益な情報だし、AIにとっては推薦の根拠になる。
足すべき事実を領域ごとに整理する。
- 泉質・温泉: 泉質名、源泉掛け流しか循環か、泉温、効能
- 設備・客室: 部屋タイプと広さ、露天風呂付きの有無、Wi-Fi、駐車場台数
- 食事: 料理の種類と品数、食事場所(部屋食/個室/大広間)、地元食材の名前、アレルギー対応の有無
- アクセス: 最寄駅・IC名、送迎の有無と所要時間、空港からの推奨ルート
各ページの情緒コピーの後に、該当する領域の事実を足す。トップページなら全領域を網羅、客室ページなら設備を重点的に、料理ページなら食事を詳しく。
修正量は主要ページ5〜10ページ分で1〜2日。HP全体を作り直す話ではない。
構造化データで機械向けの情報を分離する
HPの見た目を一切変えたくない場合は、schema.orgのLodgingBusinessやFAQPageを使い、HTML内に機械向けの情報を埋め込む方法もある。
構造化データは人間には見えないが、AIとGoogleはここから事実を取得する。泉質、チェックイン時間、客室数、食事の有無、最寄駅を構造化データに記載すれば、デザインを変えずにAIへの情報提供量を増やせる。
ただし、構造化データだけに頼るのは勧めない。本文テキストに事実が書かれていることが、AIの推薦精度を最も高める。構造化データは補助、本文テキストが本体。この優先順位は守ってほしい。
構造化データの具体的な実装方法は構造化データの設定ガイドで解説している。
よくある質問
Q. 詩的なコピーを全部書き換える必要がありますか?
書き換えは不要です。既存の情緒的な表現はそのまま残し、事実情報を追記する形で対応してください。「四季折々の味覚でおもてなし」の後に「地元食材の会席料理、夕食は個室食事処で15品」と足す形です。
Q. 写真は多いが文章が少ないHPも同じ問題ですか?
同じです。AIは画像を直接読み取りません。altテキストは参照しますが情報量が限られます。写真に写っている設備や料理は、テキストとしても記述してください。
Q. どのAIツールで自施設のHPを確認すればよいですか?
ChatGPT、Gemini、Copilot、Claudeで施設名を検索し、正確な情報が返ってくるか確認してください。ツールごとに結果が異なるため、1つだけでは不十分です。
Q. 修正後、AIの推薦に反映されるまでどのくらいかかりますか?
HP修正後、AIが情報を再取得するまで1〜4週間が目安です。構造化データを追加した場合、Googleへの反映が先に来ることが多く、AI検索への反映はその後です。
Q. 英語HPも同じ対応が必要ですか?
インバウンド集客を狙うなら必要です。英語HPでも情緒表現に偏っていないか確認し、泉質や設備の事実情報を併記してください。
