集客アイデアを足す前に、効くものと効かなくなったもの

客室が埋まらない、OTAに頼りきりで利益が薄い、新しい打ち手が思いつかない。集客のアイデアを探しているとき、まず手が伸びるのは広告やプラン造成といった定番です。どれも有効です。ただ、足す前に一度だけ確かめておきたいことがあります。

旅行者が宿を探す場所が、変わってきていることです。宿研の2025年調査では国内旅行者の32.6%が宿探しにAIを活用しています。同じアイデアでも、効く相手とそうでない相手が分かれ始めている。だから定番を一通り押さえつつ、いま最も見落とされがちな一手を最後に足す、という順で見ていきます。

32.6%
国内旅行者のAI活用率
44.9%
OTA経由の予約比率
138.7億ドル
旅行AI市場規模(2030年予測)

出典: 宿研「旅行者のAI活用に関する調査2025」、日本旅館協会「令和6年度統計調査」、Grand View Research「Travel AI Market Report 2024」

定番の集客アイデアを、発見される経路ごとに整理する

集客アイデアは数だけ挙げても選べません。旅行者にどこで見つけてもらうか、その経路ごとに並べると、自施設に足りていない打ち手が見えてきます。

発見される経路 主な集客アイデア 効きやすい場面
OTA 写真の差し替えと掲載順対策、ターゲット別プラン造成、レビューへの返信 認知を一気に広げたい / 繁忙期の取りこぼしを減らしたい
公式サイト・直予約 予約エンジンの導線改善、会員特典、公式限定プラン 手数料を減らし、リピーターを囲い込みたい
SNS・口コミ 写真・動画の発信、宿泊客への口コミ依頼と返信 写真映えや体験価値が強みの施設
地図・MEO Googleビジネスプロフィールの情報整備と写真追加 「地名+ホテル」で探されやすい立地
メール・会員 定期配信、誕生日・記念日特典、再訪クーポン 一度来た客をもう一度呼び戻したい

多くの施設は、このうち1〜2経路に偏っています。OTAだけ、公式サイトだけ、という状態です。新しいアイデアを足す前に、手薄な経路はどこかを見ておくと、同じ労力でも効きが変わります。落とし穴は、効果を測らずに全部に手を広げること。経路を絞って1つずつ試すほうが、何が効いたかを判断できます。

なぜ定番だけでは頭打ちになるのか

定番の集客アイデアは、GoogleでのSEOとOTA内での最適化を土台にしたものが中心です。どちらも有効ですが、効く範囲はGoogleとOTAという既存の枠の中に限られます。問題は、旅行者の検索行動がその枠の外へ動き始めていることです。

宿研の2025年調査では国内旅行者の32.6%が宿探しにAIを活用し、日本旅館協会の令和6年度統計では宿泊予約の44.9%がOTA経由でした。AIを使う旅行者は、ChatGPTやGemini、Perplexityに「子連れで安心して泊まれる宿は」と尋ね、返ってきた数件の推薦をそのまま検討します。ここはSEOで上位を取っても、OTA内で順位を上げても届かない別の経路です。定番の打ち手だけでは、この層が丸ごと抜け落ちます。

旅行者の宿探し手段の変化(推計イメージ) 0% 20% 40% 60% 2023年 2024年 2025年 55% 48% 44% 8% 18% 33% Google検索のみで宿探し AI検索を併用

旅行者の宿探しでAI検索の併用が拡大。確定値は2025年のAI活用32.6%、推移は推計イメージ

出典: 宿研「旅行者のAI活用に関する調査2025」、MM総研「AIチャットサービス利用動向調査2024」をもとにした推計(確定値は宿研2025の32.6%)

いま最も見落とされている集客アイデア ― AIに選ばれる状態をつくる

定番のアイデアに足したい一手が、AI検索で推薦される状態をつくることです。広告のように費用が積み上がるわけでも、SNSのように毎日投稿し続けるわけでもありません。AIが施設を正しく認識し、推薦の根拠にできる情報を公式に整える。これが、いま最も手がつけられていない打ち手です。

旅行者がAIで宿を探す段階には、すでに入っています。宿研が2026年1月に公表した調査(生成AIで旅行計画を立てた630人が対象)では、AIに宿泊先を相談した338人のうち、AIが挙げた宿に実際に行ったのは47.0%でした。AIは候補に挙げてくれるのに、最後のひと押しで選ばれていない。見送られた理由の上位はクチコミへの不安、公式情報の少なさ、写真や動画の不足で、「AIの提案に誤りがありそう」は2.2%にとどまります。選ばれるかどうかは、施設側が出している情報の厚みで決まります。

AIが提案した宿を選ばなかった理由 クチコミ・レビューの不安 35.4% 情報が少なく不安 26.1% 写真・動画が少ない 17.3% AIの提案に誤りがありそう 2.2% 上位は施設側の情報・クチコミ不足。AIの精度への不安は最下位

AIが宿を提案しても、確認先の情報が薄いと選ばれにくい

出典: 宿研「旅行計画での生成AI活用実態調査」2026年1月(AI提案の宿を見送った理由、複数回答 n=226)

この一手が効くのは、規模の小ささが不利になりにくいからです。AIが評価するのはOTAのような大きさではなく、個々の施設情報の具体性と一貫性です。「静かに過ごせる料理自慢の宿」という問いには、規模ではなく、その問いに最も合う施設が選ばれます。広告費で大手と競るより、自施設の強みを具体的な言葉で整えるほうが、費用をかけずに効くことがあります。

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困りごと別・集客アイデア早見表

いま抱えている困りごとから、定番の打ち手と、AI検索時代に足したい一手を引けるようにまとめます。右列は左列を置き換えるものではなく、上乗せする一手です。

困りごと 定番の集客アイデア AI検索時代に足す一手
平日が埋まらない 平日限定プラン、法人・ワーケーション営業 「平日に静かに過ごせる宿」でAIに推薦される情報整備
OTA頼みで利益が薄い 公式の会員特典、価格差の設計、予約エンジン改善 AI検索から公式サイトへ直接たどり着く導線づくり
新規客が増えない 写真刷新、口コミ依頼、SNS発信 AIが推薦の根拠にできる具体的な施設情報の言語化
周辺の施設に埋もれる MEO(地図最適化)、地域連携プラン 「地域+目的」の問いでAIに選ばれる情報設計
インバウンドを取りたい 多言語サイト、海外OTA 海外旅行者が母国語でAIに尋ねたときに推薦される情報整合

右列に共通するのは、いずれも「AIが施設をどう認識するか」に関わる点です。情報が曖昧だったり、媒体ごとに食い違っていたりすると、AIは推薦の根拠を持てません。逆にここが整っていれば、定番の打ち手の効きも底上げされます。

アイデアを「やりっぱなし」にしない

集客アイデアは、足した後に効果を測って初めて次が選べます。打ち手を入れたら、どの経路から予約や問い合わせが増えたかを経路別に見ます。公式サイトはGA4で流入元と予約完了を、OTAは管理画面の表示・予約数を、地図はGoogleビジネスプロフィールの表示や経路検索を確認します。

経路を分けて見ないと、効いた打ち手と効かなかった打ち手の区別がつきません。全部まとめて「なんとなく増えた」では、次のアイデアを選ぶ根拠になりません。1つ試して測る、を繰り返すほうが、数を打つより早く当たりに近づきます。

まず、自施設のAI検索での見え方を知る

新しい集客アイデアを足す前に、いちばん見落とされている経路 ― AI検索 ― で自施設がどう見えているかを把握しておくと、打ち手の優先順位が決まります。AIにそもそも候補として挙がっているのか、挙がっているなら情報は足りているのか。ここが分かれば、限られた時間とお金をどのアイデアに使うかを判断できます。

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