宿泊売上だけに頼る経営は脆い

宿泊業の売上構造は、客室収入に偏りがちです。しかし、客室数は物理的に増やせません。稼働率が上限に達した施設が売上を伸ばすには、宿泊以外の収益源を育てる必要があります。

その筆頭が料飲(F&B: Food & Beverage)部門です。ホテル内のレストラン、バー、カフェ、宴会場の料飲サービスは、客室とは異なり「地域住民」という宿泊客以外の顧客基盤を持てる唯一の部門です。

23%
ホテル料飲部門の売上構成比(平均)
35%
料飲強化施設の売上構成比
40%
地域住民のリピート率(成功施設)

出典: 帝国データバンク「ホテル経営実態調査」(2024年)

全国のホテルにおける料飲部門の売上構成比は平均23%ですが、料飲部門を戦略的に強化している施設では35%以上に達しています。この差は、料飲部門を「宿泊客向けの付帯サービス」と捉えるか、「独立した収益事業」と捉えるかの違いから生まれています。

料飲部門で成果を出している4つのモデル

モデル1: ランチ営業の本格化

朝食会場を昼はランチレストランとして開放するモデルです。ビジネスホテルでも、周辺のオフィスワーカー向けにランチバイキングやプレートランチを提供し、月商200万円以上を安定的に達成している施設があります。鍵は「ホテルのランチ」という特別感と、1,000〜1,500円という手の届きやすい価格帯のバランスです。

モデル2: カフェ・ラウンジの外部開放

ロビーラウンジやカフェスペースを宿泊客だけでなく地域住民にも開放するモデルです。Wi-Fiと電源を完備し、テレワーカーや打ち合わせ利用を取り込む施設が増えています。客単価は低いものの、平日昼間の遊休スペースを収益化でき、施設の認知向上にもつながります。

モデル3: テイクアウト・デリバリー

コロナ禍を機に始めたテイクアウトやデリバリーを恒常化している施設があります。ホテルの料理人が作る弁当や惣菜は、地域の飲食店との差別化要因になります。Uber Eatsや出前館への出店に加え、地元企業への法人弁当の定期配送契約を獲得している施設もあります。

モデル4: 体験型コンテンツ

料理教室、ワインテイスティング、季節のアフタヌーンティーイベントなど、「食の体験」をコンテンツ化するモデルです。単価が高く(1人3,000〜8,000円)、SNSでの拡散効果も期待できます。予約制にすることで食材ロスを抑えられ、収益性が高い事業になります。

ホテル料飲部門の役割を再定義する3つの問い

料飲部門を「宿泊客への付帯サービス」と捉えるか「独立した収益事業」と捉えるかで打ち手は変わります。以下の3つの問いに答えると、料飲部門の現状ポジションと目指す方向が定まります。

問い1: 料飲売上は宿泊単価向上にどの程度寄与しているか

朝食付きプランと素泊まりプランで、リピート率・口コミ評価・OTA予約単価がどう違うかを比較します。料飲が宿泊価値を底上げしているなら、レストラン単体収支がマイナスでも継続判断はあり得ます。

問い2: 地域マーケットでの認知は宿泊客と地域客どちらに偏っているか

来店客の宿泊客比率を直近12ヶ月で算出します。地域客が3割未満なら宿泊依存度が高く、宿泊稼働の変動に料飲売上も連動して不安定になります。

問い3: 料飲部門のKPIは売上総額か原価率か客単価か

何を主指標にするかで人員配置・メニュー設計・営業時間が変わります。複数を同時最適化しようとすると現場が混乱するため、優先順位を明示する必要があります。

地域住民向けマーケティングの具体策

料飲部門の外部顧客を増やすには、「ホテルのレストランは高い・敷居が高い」というイメージを崩す必要があります。

Googleビジネスプロフィールの活用

ホテル本体のGBPとは別に、レストラン単体でGBPを登録できます(ただしGoogleのガイドラインに準拠する必要があります)。レストラン名で独自のGBPを持つことで、「地域名 + ランチ」「地域名 + レストラン」の検索結果に表示されやすくなります。

SNSでの定期発信

Instagramで季節メニューの写真を週2〜3回投稿し、Googleの投稿機能も併用します。投稿内容は「今日のランチ」「季節の食材入荷」「イベント告知」のローテーションで十分です。重要なのは継続することです。

地域メディアとの連携

地域のフリーペーパー、Web情報サイト、ブロガーに新メニューやイベントの情報を提供します。メディア向けの試食会を定期的に開催している施設は、地域メディアとの関係構築に成功しています。

料飲部門の収益化で見落としやすいコスト
料飲部門の外部営業を始める際、食材原価と人件費だけでなく、食器の追加購入、ランチタイムの清掃コスト、POSシステムの追加導入費用も考慮してください。特に人件費は、朝食スタッフとランチスタッフのシフト調整が必要になるため、事前に十分な検討が必要です。

料飲部門の集客もAI検索の時代です

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料飲部門の強化がAI検索にも効く理由

料飲部門を強化し、地域住民からの口コミが増えると、施設全体の知名度(Prominence)が向上します。Googleの検索結果だけでなく、AI検索エンジンの推薦にも好影響を与えます。

「ランチが美味しいホテル」という推薦

ChatGPTやGeminiで「○○市でランチが美味しいホテル」と質問する人がいます。この質問に対してAI検索が推薦するのは、公式サイトに料飲メニューの情報が充実しており、Googleマップの口コミで料理の評価が高い施設です。

料飲部門の充実は、宿泊施設としての推薦にもプラスに作用します。「料理が美味しい」「レストランが充実している」という情報は、AI検索がホテルの魅力を評価する際の重要な要素になっています。

地域での認知が全国での推薦につながる

地域住民がGoogleマップやSNSに投稿する口コミは、AI検索が施設を評価するための重要な情報源です。地域で愛されるレストランを持つホテルは、AI検索でも「地域に根差した信頼できる施設」として推薦される可能性が高まります。

料飲部門の強化は、短期的な売上増だけでなく、AI検索時代の施設ブランディングにも寄与する投資です。「宿泊以外にお金を使ってくれる場所がない」という状態を放置せず、料飲部門を戦略的な収益源として育てることを検討してください。

よくある質問

ホテルレストランが赤字でも続けるべき場合はありますか

単独収支ではなく宿泊への波及で判断します。朝食評価がOTA口コミの主要要素になっており、宿泊単価への寄与が単独赤字を上回るケースは継続が合理的です。レストラン単体PLだけで撤退判断すると、宿泊側の評価低下や客層変化を見落とすリスクがあります。

ランチ営業を始める前に確認すべきことは何ですか

厨房キャパシティ・人員シフト・既存ディナー客への影響の3点です。ディナー仕込み時間とランチ営業時間が重なるとオペレーションが破綻するため、ランチ専任人員またはディナー仕込みの前倒し体制の確保が前提になります。

テイクアウト導入で気をつけることは何ですか

食品衛生法に基づく営業許可・容器コスト・配送品質の3点です。提供形態(調理品か仕入品か)によっては既存の飲食店営業許可だけでは対応できず、菓子製造業や惣菜製造業の許可追加が必要なケースもあります。導入前に保健所に相談することを推奨します。

料飲部門のKPI設計はどう始めるべきですか

売上総額・客単価・原価率・人件費率の4指標から、現状の課題に最も近い1つを主指標として選びます。複数を同時に追跡しようとすると現場の判断軸が複雑化するため、最初は1指標に絞って改善サイクルを回す設計が機能しやすいです。

地域住民向けマーケティングで効果が出るまでの期間はどれくらいですか

認知形成から実際の来店までは3-6ヶ月かかります。Googleビジネスプロフィール更新・SNS発信・地域メディア掲載などを組み合わせ、来店動機の作り込みに時間をかける前提で設計します。短期的な集客施策とは時間軸が異なる点に注意が必要です。